マンションが老朽化した場合、建て替えを検討する管理組合があるものの「建て替えに賛成したらいいのか、反対したらいいのかわからない」と、悩む人も多いでしょう。

マンションの老朽化を放置すると区分所有者に悪影響を与えますが、建て替えるには費用の負担が発生します。そのため、建て替えについての知識を得て、賛成するのか反対するのか決めなければなりません。

本記事では、老朽化で起きる問題やマンションの建て替えの流れ、負担する費用の目安などを解説します。記事の後半では、費用が負担できないときの対処法も紹介していますので、マンションの建て替えに不安がある人はぜひ参考にしてください。

マンションの建て替えはほとんどおこなわれていない

国土交通省によると、2023年3月時点でマンションを建て替えたのは累計で282件、約2.3万戸だとされています。

2021年末の時点で、全国の分譲マンションの戸数は約685.9万戸であり、そのうち築40年以上の高経年マンションは約115.6万戸とされています。この数字を比較しても、マンションの建て替えがいかに進んでいないのかがわかるはずです。

住人の多くが賛成する必要があること、費用の負担が大きいことが建て替えの進まない理由です。

マンションの老朽化により発生する4つの問題

マンションが老朽化すると、次の4つの問題が発生します。

  1. 設備の不具合が発生する

  2. 資産価値が下がる

  3. 建物が危険な状態になる

  4. 修繕積立金が値上げされる

ここからは、老朽化が発生したときに起こる問題を詳しくみていきます。

1.設備の不具合が発生する

マンションの老朽化が進むと、共用部分の設備に不具合が発生します。

共用部分の設備は修繕積立金を使って大規模修繕工事で随時直しますが、年数が経過すると直すだけでは機能が回復せず、徐々に使い勝手が悪くなってしまいます。

また、修繕積立金はいつでも自由に使えるものではなく、管理組合の許認可を取得して補修工事をおこなうため、すぐに補修してもらいたいとしてもすぐに工事がおこなわれません。

年数が経過した設備は修繕のサイクルが早くなるため、何度も不具合が起き、問題が起きるたびに工事を待つ必要があります。

2.資産価値が下がる

老朽化が進むと、マンションの資産価値が下がります。

マンションの資産価値は居住できる年数に影響を受け、新築のように50年以上住めるマンションなら価値は高くなり、修繕もおこなっていない古いマンションは価値が下がります。

マンションの資産価値が下がると売却できる金額も低くなり、売ったとしても手元に残るお金は多くありません。

資産価値が低いマンションは買い手の需要が低いため、売りたくてもなかなか売却できないおそれもあります。

3.建物が危険な状態になる

建物の修繕ができないと外装がはがれ落ちる、エレベーターが停止するなど危険な状態になります。

マンションが危険な状態になると、区分所有者の命にも影響するほどリスクが高まります。建物自体の強度が低下すると、大地震が発生すると倒壊するかもしれません。

危険な状態にしないためにも、定期的な大規模修繕が必要になります。

4.修繕積立金が値上げされる

建物が老朽化すると設備の交換や補修が必要となり、工事に必要な資金を集めなければなりません。

大規模修繕をおこなわないと建物が危険な状態になるため、資金が貯まっていない場合、工事の予定時期にあわせて修繕積立金を値上げして対処します。

資金が大幅に不足していると、修繕積立金の値上げ幅も大きくなるため注意しなければなりません。修繕積立金は毎月支払うお金であり、金額が増えると生活を圧迫したり、ローンの返済計画に影響するおそれもあります。

マンション建て替えの流れ

マンションの建て替えは、次の流れで進めていきます。

  • STEP1.準備段階

  • STEP2.検討段階

  • STEP3.計画段階

  • STEP4.実施段階

ここからは、各段階の内容を詳しく解説します。

STEP1.準備段階

マンションの建て替えを進める場合、まず準備段階から始めていきます。

建て替えする際には引越しが必要だったり、負担金を払ったりと入区分所有者に大きな負担がかかります。そのため、マンションが老朽化してきたときには、管理組合で建て替えするかどうかしっかりと協議しなければなりません。

老朽化の度合いや大規模修繕を続けるための費用を比較しながら検討しなければならず、建て替えの専門家にアドバイスを受けながら進めます。

STEP2.検討段階

専門家のアドバイスを受けつつマンションの建て替えが必要なのか、大規模修繕を続けてマンションの寿命を延命させるか決定します。

マンションの建て替えを検討する際には、まず建て替えを検討する委員会を立ち上げなければなりません。そして、管理会社や建築会社、建築士など外部の専門家と協議します。

また、建て替えは区分所有者に大きな影響を与えるため、建て替えの検討を始めると告知しなければなりません。

協議の結果、建て替えが最適な案だと判断したら、管理組合で「建て替え推進決議」を採択し計画段階へと移ります。

STEP3.計画段階

区分所有者からの理解が得られたら、次のような段取りをおこないます。

  • マンションを建てるデベロッパー(建築会社)を決める

  • 建て替えに関するスケジュールや建築費用などの計画を検討する

  • 区分所有者との話し合いを進めて建て替えの合意を取得する

  • 自治体や近隣住民などとの協議

なお、マンションの建て替えを決議するには、区分所有者の5分の4の承諾を取らなければなりません。たとえば、区分所有者が100人いるマンションであれば、80人もの承諾が必要です。建て替え決議はマンション建て替えの最大の障壁ともいわれ、区分所有者にしっかりと根回ししなければ進めるのは難しいでしょう。

STEP4.実施段階

建て替え決議が採択されたら「建替組合」を立ち上げます。

建替組合は、マンションの建て替えを進める団体法人で次のような手続きをおこないます。

  • 反対者の区分所有権の買取

  • 賛成者の区分所有権の付け替え

  • 仮住まいの費用や引越し費用の負担

  • 建て替え工事の段取り

建て替えにはさまざまな知識が必要であるため、マンション内に専門的な機関が置かれます。

マンションの建て替えができない場合

マンションの建て替えができない場合、大規模修繕し続け寿命を延命し、寿命を迎えたら解体して敷地を売却します。

どのようにマンションの寿命を延命するのか、敷地を売却してどうするのかみていきましょう。

大規模修繕し続け寿命を延命する

大規模修繕し続け、マンションの寿命を延ばせば長く住めるようになります。

国土交通省の資料によると鉄筋コンクリート造なら延命措置を講じれば150年はもつと試算されており、定期的に大規模修繕を実施できれば、かなり長くマンションに住めることがわかります。

ただし、大規模修繕を定期的におこなうには、計画的に修繕積立金を貯めなければなりません。修繕積立金が不足すると値上げされ、快適に住めなくなるケースもあります。

解体して敷地を売却する

マンションを維持できないと判断した場合、建物を解体して敷地を売却します。

売却代金は、区分所有権の割合によって区分所有者に分配されます。たとえば、敷地を売却し1億円が残った場合で、区分所有権の割合を10万分の7,000もっている人に対して分配されるのは700万円です。

なお、区分所有権の割合は権利書(登記識別情報通知)や、登記簿(全部事項証明書)で調査できます。

マンション建て替え時の費用負担の計算例

マンション建て替え時の負担の計算に必要な項目は、次のとおりです。

  • マンション建築坪単価

  • 専有面積(㎡)

そして、計算するには次の計算式を使います。

専有面積(㎡)× 0.3025 = 専有面積(坪)

専有面積(坪)× 1.4 × マンション建築坪単価 × 1.1 = 建て替え時の費用負担の目安


 

それでは、建て替え時の負担がどのくらいなのか、次の条件で計算していきましょう。

  • マンション建築の坪単価:120万円

  • 専有面積70㎡

70㎡ × 0.3025 = 約21.17坪

21.17坪 × 1.4 × マンション建築坪単価 × 1.1 = 約3,913万円(建て替え時の費用負担の目安)

ただし、計算した金額を全額負担するわけでなく、貯蓄している修繕積立金を差し引きます。差し引かれる修繕積立金は、区分所有権の割合に従って分配された金額です。

修繕積立金の貯まり具合やマンションの建築坪単価、解体費用などによって負担する金額は大きく変わるため、あくまで目安として考えましょう。

費用の負担ができないときの対処法

マンションの建て替え費用を負担できない場合、次のように対処しましょう。

  • 建て替えに反対し売渡請求する

  • 建て替え前に仲介か買取で売却する

建て替えに必要な費用は決して安くないため、払えないときの対処法を理解していれば悩まず対応できます。

建て替えに反対し売渡請求する

反対したのにもかかわず建て替えが決議された場合、管理組合に対して「売渡請求」できます。

売渡請求とは、建て替えるマンションを時価で区分所有権と敷地権を買取ってほしいと要求することです。

管理組合に買取ってもらえるため買い手を探す必要はないものの、売渡請求の買取金額はかなり低いと考えておきましょう。建て替える必要がある老朽化したマンションの時価は、売買相場よりも低いからです。

建て替え前に仲介か買取で売却する

建て替え前にマンションを高く売りたいなら、仲介か買取で売却しましょう。

仲介と買取との主な違いは、次のとおりです。

 

仲介

買取

売却価格

相場

相場の8割

売却スピード

遅い

早い

買い手

個人が多い

不動産会社

契約の責任

重い場合が多い

軽い場合が多い

仲介は一般個人を買い手にする方法であり、不動産相場での売却が期待できます。ただし、買い手を見つけるのには時間がかかり、売り手も買い手も保護する必要があるため契約の責任が重くなります。

一方、買取は不動産会社に不動産を購入してもらう方法です。買取は不動産相場よりも安くなるものの、すぐに売却でき、買い手がプロであるため売主の契約責任は軽くなる傾向にあります。

まとめ

マンションが老朽化すると問題が発生するため、建て替えを検討します。しかし、建て替えするには多くの手続きを経て、区分所有者の5分の4の承認が必要になります。

建て替えが決議されると、反対者はマンションを売却して退去し、賛成者は費用を負担したうえで仮住まいに移らなければなりません。どちらにしても大きな負担がかかるため、マンション建て替えの影響を理解しておくことが大切です。影響を理解しておけば、建て替えが決まったときにどうしたらいいのか悩まなくて済むはずです。