「資金に余裕ができたから住宅ローンを一括返済したい」「今のタイミングで一括返済しても良いのだろうか」住宅ローンの契約者の中には、このような考えを持っている人も多いでしょう。

住宅ローンの一括返済とは、残っている住宅ローンをまとめて返済してローンを完済することです。現在の日本は低金利時代のため、気軽に住宅ローンを利用する人が増えましたが、金融機関に支払う利息や手数料は安くありません。そのため、一括返済を上手に利用することで家計の負担が軽減されるでしょう。

この記事では、住宅ローンの一括返済を行うメリットや注意点、一括返済に適したタイミングについて解説します。少しでも住宅ローンの負担を減らしたいと感じている人は、この記事を参考に一括返済を検討してみましょう。

住宅ローンの一括返済を行うメリット3選

住宅ローンの一括返済を行うと、次の3つのメリットが得られます。

  • 月々の支払いから解放される

  • 本来支払う予定の利息がなくなる

  • 保証料が返還されることがある

それぞれのメリットを詳しく解説します。

月々の支払いから解放される

一括返済を行うことで得られる1つ目のメリットは、月々の支払いがなくなる点です。月々の支払いがなくなれば、家計における資金計画が立てやすくなります。

たとえば、住宅ローンの返済以外に車のローンやカードローンの支払いがある場合、住宅ローンだけでもなくなれば、毎月の負担が軽減されます。さらに、住宅ローンがなくなることにより、他に資金を回せる点もメリットと言えます。

本来支払う予定の利息がなくなる

住宅ローンを一括返済すれば、本来支払うはずの利息がなくなるというメリットが生まれます。住宅ローンの利息とは、金融機関に支払う手数料のことで、支払いを続けている期間は継続して発生します。一括返済を行えば、返済期間中に支払う予定の利息を支払わずに済むのです。

たとえば、5,000万円を金利0.7%、借入期間35年で借りた場合、返済期間中に支払う利息は約638万円です。35年かけて返済すると638万円すべてを支払う必要がありますが、一括返済のタイミングが早いほど支払う利息が減少します。

いつ一括返済を行えば、どれくらいの利息がなくなるのかは、計算が複雑なため個人で算出することは困難です。そのため、一括返済のタイミングと利息額を知りたい場合は、住宅ローンを組んでいる金融機関へ問い合わせてみましょう。

保証料が返還されることがある

一括返済を行うメリットとして、金融機関へ支払った保証料が返還される可能性がある点が挙げられます。保証料とは、住宅ローンの支払いができない場合、代わりに金融機関へ返済してくれる保証会社を利用するための費用です。

保証料の支払い方法には、借り入れたタイミングで一括で支払う方法(外枠方式)と金利に上乗せして支払う方法(内枠方式)があります。外枠方式では、返済期間の保証料を先払いするため、一括返済を行うことで残りの返済期間に対する保証料が返還されます。

ただし、返還される保証料の計算は複雑なため、自らで算出することは難しいです。どれくらいの保証料が戻ってくるのかは、金融機関に問い合わせてシミュレーションしてもらうと良いでしょう。

住宅ローンを一括返済する場合の注意点

住宅ローンを一括返済するとさまざまなメリットが得られますが、それ以上に気をつけるべきポイントが存在します。

  • 住宅ローン控除を受け取れなくなる

  • 手元から大きな資金がなくなり資産状況に影響する

  • 団信の消滅により保険の見直しが必要になる

  • 抵当権の抹消登記を行わなくてはいけない

  • 一括返済にかかる手数料に注意する

ここで紹介する注意点に気をつけた上で、一括返済を検討しましょう。

住宅ローン控除を受け取れなくなる

一括返済の際に注意するべき1つ目のポイントは、住宅ローン控除が受けられなくなることです。住宅ローン控除とは、住宅ローンを利用して家を購入した場合に、ローンの残高に応じて所得税や住民税から控除される制度です。一括返済を行うと、それ以降の控除が受けられなくなってしまいます。

2024年現在の住宅ローン控除期間や控除率は以下のとおりです。

【新築住宅における住宅ローン控除】

住宅の種類

控除期間

2024〜2025年入居

借入限度額

(最大控除額)

控除期間

控除率

長期優良住宅

認定住宅

13年間

4,500万円

(409.5万円)

13年

0.7%

ZEH住宅

13年間

3,500万円

(318.5万円)

省エネ住宅

13年間

3,000万円

(273万円)

その他の住宅

13年間

※0円

10年

※2023年に建築確認を受け、2024年~2025年に入居した場合は、借入限度額2000万・借入期間10年間の対象です。

【中古住宅における住宅ローン控除】

住宅の種類

控除期間

2022〜2025年入居

借入限度額

(最大控除額)

控除期間

控除率

長期優良住宅

認定住宅

ZEH住宅

省エネ住宅

10年間

3,000万円

(210万円)

10年

0.7%

その他の住宅

10年間

2,000万円

(140万円)

たとえば、4,000万円で長期優良住宅の新築一戸建てを購入した場合、13年間で最大364万円の控除が受けられます。(4,000万円✕0.7%✕13年間=364万円)※納める所得税や住民税によって、控除される金額は異なります。

住宅ローン控除は最長13年間受けられるため、できればその期間を経過した後に一括返済を行うと良いでしょう。ただし、先述したように住宅ローンの返済には利息がかかっているため、控除額と利息のバランスを考えながら、一括返済を検討する必要があります。

手元から大きな資金がなくなり資産状況に影響する

住宅ローンを一括返済すると、手元資金が大きく減り資産状況に影響を及ぼすおそれがあります。一括返済には高額な資金がかかるケースがほとんどのため、無理をして一括返済すると生活が苦しくなってしまうかもしれません。

特に、子どもの教育費や車の買い替えなど、大きな出費がかさむ時期の一括返済はおすすめできません。不測の事態によって発生した出費に対応できるよう、ある程度の現金を残しておく必要があるためです。住宅ローンの一括返済は予備資金で行うことを心がけ、必要な現金を手元に残しておくようにしましょう。

団信の消滅により保険の見直しが必要になる

一括返済で気をつけるべき3つ目の注意点は、一括返済を行うと団信が消滅するため、保険の見直しが必要になることです。団信とは「団体信用生命保険」の略で、住宅ローンの契約者が死亡や高度障害によって返済できなくなった際に、残債の支払い義務が消滅する保険です。

もし、住宅ローン返済中の保険が団信のみだった場合、一括返済を行うことで一時的に無保険になってしまいます。無保険になると、万が一の事態が起きた場合に遺族が経済的なリスクにさらされるおそれがあるため、保険の見直しや加入を検討する必要があります。保険は年齢が上がると保険料が割高になるため、一括返済を考える場合は、早めに保険の見直しを検討しましょう。

抵当権の抹消登記を行わなくてはいけない

住宅ローンの一括返済を行うと、抵当権の抹消登記が必要になる点にも注意が必要です。抵当権とは、住宅ローンを組んだ際に家に設定される担保権のことです。

一括返済を行ったタイミングで抵当権の抹消登記を行わなければ、後々の手続きが複雑になります。一括返済から時間が経った状態で抵当権を抹消する場合、金融機関から改めて委任状を取り寄せる必要があるため、手間と時間がかかってしまうのです。

抵当権の抹消登記は、司法書士に手続きを委任するのが最も簡単な方法ですが、自分で手続を行うこともできます。ただし、抹消登記にはさまざまな書類が必要になるため、自分で手続を行う場合は十分な準備が必要です。

一括返済にかかる手数料に注意する

一括返済には手数料が発生することも理解しておきましょう。一括返済の手数料は、金融機関や返済方法によって異なりますが、1〜5万円程度の手数料が一般的です。インターネットバンキングを利用した一括返済は手数料が低く、窓口での返済は手数料が高くなる傾向にあります。

また、返済期間が残り少ない場合、一括返済で減らせる利息より手数料のほうが高くなる可能性があります。返済するタイミングや手数料を考慮して、一括返済を検討することが重要です。

住宅ローンの一括返済を検討する4つのタイミング

住宅ローンの一括返済を検討するタイミングとして、主に以下の4つが考えられます。

  • 資金に余裕が生じた

  • 定年退職をした

  • 住宅ローン控除が終了した

  • 子どもが独立して教育費が不要になった

それぞれのタイミングで一括返済を行うメリットを紹介します。

資金に余裕が生じた

一括返済を行うべき1つ目のタイミングは、資金に余裕ができたときです。一括返済を行っても手元に十分な資金が残るのであれば、一括返済を検討しましょう。

ただし、現在のゆとりだけでなく、近い将来に発生する出費も考慮する必要があります。たとえば、一括返済を行っても今の生活に問題はないが、数年後に子どもの学費としてまとまった資金が必要になる場合などが考えられます。

その上で一括返済を行う余裕があるのであれば、利息を軽減するためにも、早めの手続きがおすすめです。

定年退職をした

定年退職をしたタイミングも一括返済に適しています。定年退職により得た退職金を一括返済に充てれば、家計の負担が少なくて済みます。定年退職をした後は収入が減りやすいため、一括返済により負担が軽減されると生活に余裕ができるでしょう。

しかし、一括返済により老後の資金が足りなくなてしまっては本末転倒です。退職金を利用して一括返済を検討する場合でも、収支のバランスを考慮して無理のないライフプランを立てることが重要です。

住宅ローン控除が終了した

住宅ローン控除の期間が終了したタイミングでも、一括返済を検討してみましょう。住宅ローン控除の恩恵を受けたあとに資金的な余裕があれば、一括返済を行うタイミングだと言えます。

先に述べたとおり、住宅ローン控除は最長10〜13年間適用されます。条件によりますが、最大で300万円以上の税金が控除される可能性がある制度のため、住宅ローン期間中にしっかりと資金を貯めておくと良いでしょう。

子どもが独立して教育費が不要になった

子どもが独立して教育費がかからなくなったタイミングも一括返済に向いています。教育費にかかっていた費用を、そのまま一括返済用の資金として貯蓄すれば、無理なく一括返済が行えるでしょう。

多くの場合、子どもが独立する時期になれば住宅ローンの残高も減っています。一括返済の費用負担もそれほど大きくないため、計画的に積み立てれば比較的無理なく返済できるでしょう。

住宅ローンを一括返済する際の流れ

住宅ローンの一括返済は、主に次の流れで行われます。

  1. 住宅ローンを組んでいる金融機関に一括返済を行いたい旨の連絡を入れる

  2. キャッシュカードや銀行印、本人確認書類などを持って来店する

  3. 手続きに必要な書類に記入・押印する

  4. 返済予定日までに返済額を口座へ入金する

  5. 指定日に口座から返済額が引き落とされる

  6. 抵当権抹消手続きを行う

上記は窓口で一括返済を行う流れですが、金融機関によってはインターネットバンキングで行うことも可能です。窓口へ行く時間が取れない人は、インターネットバンキングでの一括返済がおすすめです。

一括返済を行う場合は、かならず金融機関によるシミュレーションを行いましょう。シミュレーションにより利息や手数料の計算が行われるため、無駄な費用が発生しないことを確認して手続きを進めることが重要です。

まとめ

この記事では、住宅ローンの一括返済を行うメリットや注意点、流れについて解説しました。一括返済を行うことで、利息の支払いが軽減される、保証料が返還されるなどのメリットが生まれます。ただし、住宅ローン控除が受けられなくなったり手元の資金が減ったりする点に注意が必要です。

住宅ローンを一括返済すれば、毎月の支払いから解放されて金銭的な負担が軽減されます。ここで紹介したポイントに注意しながら、無理のない返済計画で一括返済を検討してみてはいかがでしょうか。