不動産を売却するとき住民票を異動しなければなりませんが、どのタイミングで移せばよいか分からないという人もいるのではないでしょうか。

不動産を売却するときの必要書類として印鑑証明書が必要ですが、印鑑証明書と住民票は連動しているため注意しなければならない点もあります。

この記事では、不動産売却時に住民票を異動させるタイミングから売却の前に引越しする場合の注意点について解説します。

不動産売却時の住民票の異動は引越しから14日以内

家を売却したあと、新しい住所地に住民票を異動しなければなりません。原則として、引越した日から14日以内に届けることが義務付けられています(住民基本台帳法22条.23条)。

例外的に、新しい住所地に住む期間が1年以内もしくは生活の拠点ではない場合は異動しなくても構いません。

同一の市区町村に引越す場合は転居届を提出し、異なる市区町村に引越す場合は、旧住所地で転出届を提出してから新住所で転入届を行う必要があります。

出典:e-GOV「住民基本台帳法」

住民票を異動しない場合のペナルティ

住民票を異動しない場合、5万円以下の過料に処せられる可能性があります(住民基本台帳法52条)。

過料は国や自治体が科す金銭の納付命令であり刑罰ではないため前科にはなりませんが、引越ししたら速やかに住民票を異動させましょう。

また、住民票を異動しない場合、住所情報が旧住所のままのため、国民健康保険や年金、児童手当などの手続きができません。他にも、選挙権を行使できない、新住所での行政サービスが受けられないなどの不利益が生じます。

不動産売却で住民票を異動する流れと必要書類

では、不動産を売却する際、住民票はどのように異動させればいいのでしょうか。必要書類も含めて解説します。

転出届・転入届(市区町村が変わる場合)

他の市区町村に引越す場合の手続きは以下のとおりです。

  1. 引越し前の市区町村で転出届を提出・転出証明書をもらう

  2. 引越し先の市区町村で転入届を提出

1.引越し前の市区町村で転出届を提出・転出証明書をもらう

引越し前の市区町村の役所で住民異動届に必要事項を記載した「転出届」を提出し、「転出証明書」を受け取ります。転出証明書とは、現在の市区町村から別の市区町村へ引越しすることを証明する書類です。引越し先の役所で転入手続きをする際に必要となります。

転出届に必要な書類は次のとおりです。

  • 本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)

  • 国民健康保険証・高齢者医療受給者証・乳幼児医療証(該当者のみ)

  • 印鑑登録証(登録済みの方のみ)

印鑑登録済みの場合、印鑑登録書を持っていくと抹消手続きができます。

また、マイナンバーカードや住民基本台帳カード(住基カード)を発行済みであれば、これらのカードを転出証明書の代わりとして利用できますので、忘れずに持っていきましょう。

なお、転出届は郵送でも行うことが可能です。転出届に必要な住民異動届は、市区町村のホームページからダウンロード、もしくは郵送で取得できます。本人確認書類など必要書類と切手を貼った返信用封筒などを同封したうえで転出届を郵送で提出し、転出証明書を返送してもらいます。

転出届を提出し忘れたまま遠方に引越しした場合などは、郵送での手続きが便利です。自治体によって手続きや必要書類が異なる場合があるため、詳細はホームページなどで確認してみましょう。

2.引越し先の市区町村で転入届を提出

次に、引越し先の市区町村の役所で「転入届」を記載し、「転出証明書」と併せて提出します。転入届に必要な書類は次のとおりです。

  • 転出証明書

  • 本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)

  • 印鑑

一部の自治体では、平日以外に土日の一部の時間帯で受付するケースがあります。平日になかなか時間がとれない方などは受付時間帯を調べ、引越しに間に合うように手続きをしましょう。

転居届(同一市区町村の場合)

同じ市区町村内での引越しの場合、転出届ではなく転居届の手続きを行います。郵送物の送付先は変わるものの、同一市区町村内の場合、国民健康保険や地方税の管轄などは変わりません。

ただし、同一市区町村であっても、2週間以内に手続きしなければ過料の対象となるため忘れずに行いましょう。

転居届に必要な書類は次のとおりです。

  • 本人確認書類(運転免許証、パスポートなど)

  • 国民健康保険証・高齢者医療受給者証・乳幼児医療証など(該当者のみ)

  • 印鑑

必要書類は市区町村によって異なる場合があるため、ホームページなどで確認しましょう。

不動産売却前に引っ越す場合の注意点

不動産を売却する場合、先に新居に引越した後に売却するケースがあります。不動産を売却する前に引越す場合には注意しなければならないことがあります。

不動産を売却する前に印鑑証明書を取得する

不動産を売却するときに売主が準備する資料の1つが、発行日から3ヶ月以内の印鑑証明書です。

不動産を売却すると、不動産の名義人を売主から買主に変更する所有権移転登記をします。このときに売買契約書に押印した実印の印鑑証明書が必要です。

印鑑証明書には、登録印の印影のほかに、登録者の氏名、住所、生年月日、発行年月日が記載されています。このとき印鑑証明書の氏名、住所と不動産登記簿上の所有者の住所が一致していることが必要です。

これにより、所有権移転登記を受け付ける法務局は、不動産の権利を失う売主と申請者が同一であることを判断します。

そのため、不動産を売却する前に新居へ引越しする場合、新住所へ住民票を異動する前に、旧住所で印鑑証明書を取得しておくことが必要です。

なぜなら、印鑑登録と住民票は連動しており、異なる市区町村に住民票を異動させると旧住所地での印鑑証明書を取得できなくなるからです。

印鑑証明書を取得していない場合や有効期限が切れた場合

では、住民票を異動する前に印鑑証明書を取得していなかった場合、あるいは、取得してから3ヶ月以内に売却できず有効期限が切れてしまった場合、どのようにすればよいのでしょうか。

このとき、登記簿上の所有者の住所を変更する「住所変更登記」をすることで、登記上の住所と印鑑証明書の住所を一致させることができます。

法務局としては、所有権移転登記の手続き上、登記簿と印鑑証明書の住所が同じであれば問題ありません。住所変更登記をする方法として、自分で手続きする場合と司法書士に依頼する場合がありますので、それぞれについて解説します。

自分で手続きする

自分で住所変更登記する流れは、次のとおりです。

  1. 登記事項証明書を取得する

  2. 必要書類を準備する

  3. 登記申請書を作成する

  4. 収入印紙を購入して登録免許税を納付する

  5. 不動産を管轄する法務局に登記申請する

  6. 登記完了

1.登記事項証明書を取得する

最初に、登記事項証明書を取得して現在の登記されている内容を確認します。法務局で申請書を記載のうえ、手数料(600円)を収入印紙を申請書に貼付して納めます。

登記事項証明書は、自宅からインターネットで申請することも可能です。

参照:法務局「登記事項証明書(土地・建物),地図・図面証明書を取得したい方」

2.必要書類を準備する

住所変更登記に必要な書類は、次のとおりです。

  • 住所変更登記申請書

  • 住民票の写しまたは戸籍の附票の写し

  • 印鑑

  • 本人確認書類(運転免許証、健康保険証など)

住所変更登記申請書は法務局で取得するほか、法務局のホームページからダウンロードも可能です。

住民票の写しは、以前の住所から現在の住所へ移ったことを確認できるものが必要です。戸籍の附票は、新しい戸籍を作ったときに、以降の住民票の移り変わりを記録したもので、住民票で移転の経緯を証明できない場合に必要です。

3.登記申請書を作成する

登記事項証明書に記載されている情報を見ながら、登記申請書を作成します(下図参照)。記載例が法務局のホームページに記載されていますので参考にしましょう。

出典:法務局「不動産登記の申請書様式について」

4.収入印紙を購入して登録免許税を納付する

住所変更登記には、不動産1個につき1,000円の登録免許税がかかります。土地、建物がある場合は2,000円、マンションについても、敷地部分と建物の専有部分は別の扱いとなり2,000円が必要です。

登録免許税は、収入印紙を金額分購入し、申請書に貼付して納付します。

5.不動産管轄の法務局に申請する

不動産の所在地を管轄する法務局に、登記申請書と必要書類を添えて住所変更登記を申請します。なお、登記申請は郵送で行うことも可能です。

6.登記完了

登記申請から1週間程度で登記が完了しますので、法務局で登記完了証を受け取ります。このとき登記申請書で押印したものと同じ印鑑が必要です。

登記完了証は郵送でも受け取ることができます。

司法書士に依頼する

手続きには時間と手間がかかるため、司法書士に依頼することもできます。

ただし、司法書士に依頼する場合、必要書類の取得費や登録免許税のほか、報酬を支払う必要があります。目安は、1~2万円程度です。

手続きが面倒や自信がない場合には、司法書士に依頼するとよいでしょう。

現住所と登記上の住所が違う不動産は住民票が必要

不動産の売却時に住民票が必要となるケースとして、不動産登記簿上の住所が売却する不動産の住所と違っている場合があります。

これは、売却する不動産を購入したときに、不動産登記上の住所を新しい住所ではなく、前の住所で登記しているケースです。

いわゆる「現住所(旧住所)登記」といわれるもので、不動産を購入するときに、現住所で登記するか、あるいは新住所で登記するかを不動産仲介会社に聞かれる場合があります。

購入したとき(正確には、不動産の引渡しを受けた時)は、現住所のままであるため、その住所で登記することは問題ありません。

この場合、売却するにあたって、登記簿上の住所を現住所に一致させる必要があるため、住所変更登記です。その際、印鑑証明書や以前に住んでいた住所と現住所のつながりを証明するための住民票などが必要となります。

まとめ:不動産の売却時は忘れずに住民票を異動しよう

不動産を売却した場合、新居への引越しから14日以内に住民票を異動させなければなりません。

市区町村をまたぐ場合と同一市区町村内で引越す場合、それぞれ忘れずに手続きをしましょう。

ただし、新居を先に購入してその後に売却する場合など、売却前に引越しする場合には注意が必要です。

不動産売却の手続き上、印鑑証明書の住所と登記簿上の住所は一致している必要があります。そのため、売却前に住民票を異動する場合、事前に旧住所での印鑑証明書を取得しておくことが必要です。

もし、印鑑証明書を取得しなかった場合や印鑑証明書の有効期限が切れた場合は、住所変更登記が必要となり費用や手間がかかるため注意が必要です。

登記手続きは自分でもできますが、時間や手間がかかるため司法書士に依頼することも検討しましょう。