10年超所有軽減税率の特例という言葉は耳にしたことがあるものの「制度の中身をよく知らない」「適用条件や税率がわからない」などと感じている人もいるでしょう。
本記事では、10年超所有軽減税率の特例に関する基礎知識を解説するとともに、適用される条件、他の制度との併用の可否、適用された場合の税額シミュレーションなどを紹介します。
少しでも節税したい人に役立つ情報をわかりやすくまとめているので、参考にしてください。
この記事の目次
10年超所有軽減税率の特例とは?
10年超所有軽減税率の特例とは、10年以上所有していたマイホームを売却した際の譲渡所得税について、通常の長期譲渡所得よりも低い税率の特例が適用される制度です。
【用語解説】
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譲渡所得とは:
不動産売却時に生じる所得のことで、「収入金額-取得費-譲渡にかかった費用」で算出される
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長期譲渡所得とは:
所有期間5年超の不動産を売却した際に得る所得のこと
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譲渡所得税とは:
譲渡所得税に対して課される税金のことで、取得税、住民税、復興特別税を合算したもの
不動産売却時に発生する譲渡所得は、所有期間に応じて「短期譲渡所得」「長期譲渡所得」という2つの区分に分かれる仕組みとなっており、以下のように課される税率が変わります。
区分 |
不動産の所有期間 |
譲渡所得税の税率 |
短期譲渡所得 |
5年以下 |
39.63%(所得税+住民税+復興特別税) |
長期譲渡所得 |
5年超 |
20.315%(所得税+住民税+復興特別税) |
見てのとおり、短期譲渡所得と長期譲渡所得の税率には2倍近い差がありますが、10年超所有軽減税率の特例はこの長期譲渡所得よりさらに低い税率を受けられる特例だということです。
10年超所有軽減税率の特例が適用される条件
10年超所有軽減税率の特例を受ける場合は、以下5つの要件すべてに当てはまる必要があります。
要件 |
備考 |
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① |
日本国内にある自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地を売ること |
・以前に住んでいた家屋や敷地の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること ・対象のこれらの家屋が災害により滅失した場合には、その敷地を住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること ※住んでいた家屋または住まなくなった家屋を取り壊した場合は、次の3つの要件すべてに当てはまることが必要 ①取り壊された家屋およびその敷地は、家屋が取り壊された日の属する年の1月1日において所有期間が10年を超えるものであること。 ②その敷地の譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。 ③家屋を取り壊してから譲渡契約を締結した日まで、その敷地を貸駐車場などその他の用に供していないこと。 |
② |
売った年の1月1日において売った家屋や敷地の所有期間がともに10年を超えていること |
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③ |
売った年の前年および前々年にこの特例の適用を受けていないこと |
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④ |
売った家屋や敷地についてマイホームの買換えや交換の特例など他の特例の適用を受けていないこと |
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例と軽減税率の特例は、重ねて受けることができる |
⑤ |
親子や夫婦など「特別の関係がある人」に対して売ったものでないこと |
「特別の関係がある人」には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含む |
10年超所有軽減税率の特例と併用できる制度・できない制度
不動産の売却時には節税・減税に使えるさまざまな制度が用意されていますが、10年超所有軽減税率の特例を受ける場合、併用できる制度とできない制度があります。
10年超所有軽減税率の特例と併用できる制度
10年超所有軽減税率の特例は、「3,000万円特例控除」制度との併用が可能です。
3,000万円特例控除の詳細を以下にまとめるのでチェックしてみましょう。
制度概要 |
マイホーム(居住用財産)を売ったときは、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる |
適用条件 |
①自分が住んでいる家屋を売るか、家屋とともにその敷地や借地権を売ること。なお、以前に住んでいた家屋や敷地等の場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること ②売った年の前年および前々年にこの特例(「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」によりこの特例の適用を受けている場合を除きます。)またはマイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと ③売った年、その前年および前々年にマイホームの買換えやマイホームの交換の特例の適用を受けていないこと ④売った家屋や敷地等について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと ⑤災害によって滅失した家屋の場合は、その敷地を住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること ⑥売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと(特別な関係には、このほか生計を一にする親族、家屋を売った後その売った家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含まれる。) |
適用が除外される要件 |
①この特例の適用を受けることだけを目的として入居したと認められる家屋 ②居住用家屋を新築する期間中だけ仮住まいとして使った家屋、その他一時的な目的で入居したと認められる家屋 ③別荘などのように主として趣味、娯楽または保養のために所有する家屋 |
3,000万円特例控除と10年超所有軽減税率の特例を併用することで税額を大幅に軽減できるため、不動産売却時には必ずチェックしておきましょう。
10年超所有軽減税率の特例と併用できない制度
10年超所有軽減税率の特例と併用できない主な制度は以下の2種類です。
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住宅ローン控除:
住宅ローンを借り入れて住宅の新築・取得又は増改築等をした場合、年末のローン残高の0.7%を所得税(一部、翌年の住民税)から最大13年間控除する制度
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特定の居住用財産の買換え特例:
特定のマイホーム(居住用財産)を、令和5年12月31日までに売って、代わりのマイホームに買い換えたときは、一定の要件のもと、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることができる制度
マイホームを売却する場合は、10年超所有軽減税率の特例だけでなく、他の制度と比較しながらもっともお得なものを見極めることが大切です。
10年超所有軽減税率の特例適用時における税率
10年超所有軽減税率の特例が適用された場合の税率は以下のとおりです。
通常の長期譲渡所得における税率もあわせて紹介するので、どれだけお得になるのか比較してみましょう。
税率 |
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長期譲渡所得 |
20.315% |
10年超所有軽減税率の特例適用時 |
6,000万円以下の部分:14.21% |
6,000万円超の部分:20.315% |
ご覧のとおり、10年超所有軽減税率の特例が適用されると、譲渡所得6,000万円以下の税率が大きく軽減され、6,000万円超の部分に対しては長期譲渡所得と同じ税率が適用される仕組みとなっています。
【シミュレーション】10年超所有軽減税率の特例を受けた場合の譲渡所得税
10年超所有軽減税率の特例を受けた場合の譲渡所得税について、具体的な数字を用いながらシミュレーション形式で紹介します。
3,000万円特例控除と10年超所有軽減税率の特例を併用した場合のケースも紹介するので、参考にしてください。
①:譲渡所得1,000万円、所有期間15年
売却時に所有期間が10年を超えているため、要件を満たしている場合は10年超所有軽減税率の特例が適用されます。
譲渡所得税率、および税額は以下のとおりです。
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税率:14.21%(所得税+住民税+復興特別税)
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税額:1,421,000円=「譲渡所得1,000万円」×「14.21%」
②:譲渡所得5,000万円、所有期間12年
こちらも同様に、要件を満たしている場合は10年超所有軽減税率の特例が適用されます。
さらに、3,000万円特別控除の適用要件も満たしていると仮定し、2つの制度を併用したシミュレーション結果を紹介します。
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譲渡所得:2,000万円=「5,000万円」-「3,000万円(3,000万円特別控除)」
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税率:14.21%(所得税+住民税+復興特別税)
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税額:2,842,000円=「譲渡所得2,000万円」×「14.21%」
10年超所有軽減税率の特例の手続き方法
10年超所有軽減税率の特例を受けるためには、不動産を売却した翌年に一定の書類を添えて確定申告を行う必要があります。
確定申告の期間は通常、2月16日から3月15日までとなっているため、準備を整えておきましょう。
必要書類
10年超所有軽減税率の特例を受けるための必要書類は以下のとおりです。
譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]
譲渡契約締結日の前日において、住民票に記載されていた住所と売却した居住用財産の所在地とが異なる場合は、戸籍の附票の写しなど
売却した居住用財産の登記事項証明書
10年超所有軽減税率の特例は確定申告時に手続きを行うため、上記とあわせて確定申告に必要な書類も用意しておきましょう。
まとめ
10年超所有軽減税率の特例は単体でも大きな節税効果があるだけでなく、3,000万円特例控除と併用可能です。
ただし、適用を受けるためには一定の条件を満たす必要があるほか、併用できない制度もあるため、事前に把握うえでうまく活用しましょう。
譲渡所得税を少しでも抑えることができれば、手元により多くのお金を残せるため、さまざまな制度を比較しながらもっともお得なものを選んでください。