住み替えにあたってダブルローンを検討しているものの「利用条件がわからない」「どんなリスクがあるのか心配」など、疑問や不安を感じている方は多いでしょう。

本記事では、ダブルローンの基礎知識とあわせて、メリット・デメリット、利用するための条件などをわかりやすく解説します。

さらに、ダブルローン利用時の返済シミュレーション、混同しやすいローンとの使い分けなど、実用的な情報も紹介するので、参考にしてください。

ダブルローンとは

ダブルローンとは文字どおり、2つの不動産に対する住宅ローンを並行して組んでいる状態のことです。

わかりやすいように例を出して説明しましょう。

  1. 自宅の住み替えを検討しているが、現在の自宅に住宅ローンが残っている(住宅ローンA)

  2. 新居を購入するために新たな住宅ローンを組む(住宅ローンB)

このようにダブルローンは住み替えに伴い、従来の自宅に住宅ローンが残っている場合に使われることの多い方法です。

基本的に住宅ローンの残債があると住居は売却できないため、一時的に「現在の自宅」「新居」の2つで住宅ローンを組むことになるのです。

ただし、ダブルローンはあくまで一時的なものであり、以前の住宅を売却して得た代金と自己資金をあわせてローンの残債を完済できる場合にのみ利用が限られることを覚えておきましょう。

ダブルローンのメリット

ダブルローンを利用すると同時に2つのローンを返済する必要があるため、一見すると得がないように感じられるかもしれません。

しかしながらダブルローンにはさまざまなメリットが存在しています。

売却と購入のタイミングを自分で決められる

住み替えの場合、既存の住宅をなるべく高く売れるタイミングで売却し、新たな住宅をなるべく安く売れるタイミングで購入したいと考えるものです。

しかし、売却・購入のベストタイミングをぴったりとあわせるのは至難の業で、「優良物件が見つかったから、以前の住居は多少安くても手放せざるを得ない」といったような状況は往々にして起こり得ます。

一方ダブルローンなら、従来の住居を保有したままじっくり新居を探せますし、売却のタイミングも自由に決められるため、時間やタイミングに縛られることなく売却・購入活動を進められます。

仮住まいを用意する必要がない

住宅を買い替える場合、一般的には従来の自宅を売却して得たお金で新居を購入します。

そのため、売却から新居へ移り住むためにタイムラグが生まれ、一時的に仮住まいに引っ越さなければなりません。

つまり、「以前の住宅→仮住まい→新居」と2回引っ越しが必要となるため、時間やコストがかさんでしまうことになります。

一方ダブルローンなら、新居へ移り住むまで以前の住宅を手放すことはないため仮住まいの必要がなくなり、時間や労力を大幅に削減できます。

空き家の状態で売り出せる

ダブルローンは、売却活動においてもメリットをもたらします。

一般的な買い替えでは、従来の自宅をまずは売却するのが最初のステップであるため、居住中の住居で内覧を実施しなければなりません。

購入希望者としては家財道具がある状態で住宅の間取り、広さなどを正確に把握するのが難しいため、売却時に不利に働く可能性があります。

その点、ダブルローンなら新居に移り住んでから売却活動をはじめられるため、完全に空き家状態での内覧が可能です。

購入希望者は何もない本来の間取りや住宅性能をチェックできるため、売却価格向上やスムーズな売却へつながるでしょう。

ダブルローンのデメリット

ダブルローンの主なデメリットを紹介するので、メリットとあわせてチェックしておきましょう。

返済額が増える

ダブルローンでは、従来の自宅のローンと新居のローンを同時に返済することになるため、毎月のローン返済額は必然的に増加します。

ただし、ダブルローン自体が「ローンを2つ組む」ことを指すため、デメリットというより当然の仕組みだといえるでしょう。

大切なのはダブルローンによる増える月々の返済額を踏まえ、収支のバランスを試算することであるため、売却価格の想定も含めて慎重に検討しましょう。

以前の住居を賃貸に出せない

ダブルローンでは、一時的に2軒の住居を所有している状態となりますが、新居に移り住んでいる状態でも以前の住居は賃貸に出せません。

理由はいたってシンプルで、住宅ローンとは「自らの居住用物件を購入するためのローン」だからです。

住宅ローンを返済した後であれば問題ありませんが、残債がある状態で賃貸に出すと金融機関との契約違反になる危険性があるため注意しましょう。

以前の住居に住宅ローン控除が適用されない

住宅ローン控除とは、住宅ローンを組んで家を購入した際に、一定期間、住宅ローン残高に応じた金額が所得税や住民税の一部から控除される制度です。

ただし、住宅ローン控除は住宅ローンを組んだ場合に必ず適用されるとは限らず、以下のような要件を満たす必要があります。

  1. 住宅の新築等の日から6か月以内に居住の用に供していること。

  2. この特別控除を受ける年分の12月31日まで引き続き居住の用に供していること。
    (注)個人が死亡した日の属する年にあっては、同日まで引き続き住んでいること。

  3. 2以上の住宅を所有している場合には、主として居住の用に供すると認められる住宅であること。

  4. 贈与による住宅の取得でないこと。

引用元:国税庁 | 一般住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)

注目すべきは3番目の要件で、「2軒以上の住宅を所有している場合は居住用の住宅であること」と示されています。

つまり、ダブルローンを組んでいる場合は新居に住んでいる状態となるので、以前の自宅は住宅ローン控除が受けられません。

住宅ローンがひとつのときと比べると、ローンの返済負担が増えるだけでなく、税制優遇の面でもデメリットがあることは覚えておきましょう。

ダブルローンの条件

ダブルローンは便利な制度ではあるものの、2つのローンを毎月返済する必要しなければならないため、申し込めば誰でも利用できるものではありません。

ここでは、ダブルローンの主な利用条件を2つ紹介するのでチェックしてみましょう。

返済能力がある

ダブルローンでは、2つの住宅ローンを並行して返済する必要があるため、一定の返済能力が求められます。

返済能力を判断する基準として用いられるのが、年収に対する返済額の割合を示す「返済比率」である、一般的には返済比率30%が目安となります。

ただし、基準は金融機関によって異なるため、ダブルローンを利用したい場合は複数の金機関に相談してみるとよいでしょう。

参考までに、全国300以上の金融機関が住宅金融支援機構と提携して扱う全期間固定金利型住宅ローン「フラット35」における返済比率の基準を紹介します。

年収

返済比率

400万円未満

30%以下

400万円以上

35%以下

引用元:フラット35 | 年収による借入額などの制限はありますか。

すでにローンを組んでいる金融機関の許可を得る

ダブルローンを利用できるかどうかは、新居の住宅ローンだけでなく既存の住宅ローンも大きく関わっています。

なぜなら現在ローンを組んでいる金融機関は新たな住宅ローンが増えることを想定して融資をおこなっていないからです。

ダブルローンを利用するということは、新たにローンが追加されるわけですから、現在ローンを組んでいる金融機関から了承を得なければなりません。

了承を得るにはいくつかの要件をクリアする必要があるため、以下のポイントを参考にして利用の可否を検討しましょう。

  • 既存のローンと新居のローンをあわせて、返済比率が年収の30%未満

  • 従来の住居を売却してローンの残債を完済できる見込みがある

  • 従来の住居を売却してローンの残債を完済できない場合でも、自己資金で全額返済できる

完済時の年齢条件をクリアしている

住宅ローンの審査では、返済能力に直結する収入だけでなく、契約者の年齢も大きな判断基準となります。

金融機関によりけりですが、一般的には70歳~80歳までにローンを完済する前提で審査するケースが多くなっており、完済時の年齢が高くなるほど審査に通過する可能性は低くなります。

借入時の年齢、完済時の年齢、健康状態など、審査の基準は金融機関によって異なるため、複数の金融機関に相談してみるとよいでしょう。

ダブルローン利用時の返済シミュレーション

ダブルローンでは2つの住宅ローンを返済することになりますが、月々の返済額次第で利用の可否を検討するという方は多いでしょう。

そこで、トータルの借入額を5,000万円とした場合のダブルローン返済シミュレーションを用意しました。

借入額

5,000万円

金利(35年返済固定金利)

1.9%

ボーナス返済

0円

1,000万円(総額)

毎月返済額

163,076円

130,461円

返済総額

6,849万2,196円

6,853万160円

次に、上記の毎月返済額をもとにして年収別の返済比率を見てみましょう。

年収

返済比率(ボーナス返済なし)

返済比率(ボーナス返済あり)

目安となる返済比率30%の毎月返済額

500万円

39.1%

31.3%

125,000円

600万円

32.6%

26.1%

150,000円

700万円

28.0%

22.4%

175,000円

800万円

24.5%

19.6%

200,000円

今回のシミュレーションの場合、年収600万円以下ではボーナス返済なしで目安となる「返済比率30%」を上回ってしまうことがわかります。

また、ボーナス返済ありでも年収600万円なら返済比率30%は150,000円ですから、毎月2万程度しか余裕がなく、ダブルローンを利用するのは難しいでしょう。

ダブルローンと似たローンのかしこい使い分け方

ここでは、ダブルローンと混同されやすい他のローンとの違いやかしこい使い分けのポイントを解説します。

住み替えローン

住み替えローンとは、現在住んでいる自宅と新居のローンをまとめて融資してもらえるタイプのローンです。

ダブルローンとの違いは、新旧ローンをあわせて「ひとつのローン」とする点で、主に以下のような利用条件が定められています。

  • 購入する住み替え先の家が自分の居住用である

  • 現在住んでいる家の住宅ローンが残っており、なおかつ売却代金・自己資金をあわせても完済が難しい

  • 現在住んでいる家の売却、住み替え先の家の購入手続きを並行して進める

  • 過去にローンの滞納履歴がない

  • 返済能力の基準をクリアしている

そもそもダブルローンは一時的に用いるものであり、住居の売却代金および自己資金で以前のローンを完済できる場合のみの利用に限られます。

一方、住み替えローンは住居の売却代金および自己資金で完済が難しい場合でも利用できるため、ローンの残債と住居売却後の完済の見込みを考慮して、利用すべきローンを検討しましょう。

ペアローン

ペアローンとダブルローンは言葉の印象自体は似ているものの、全くの別ものです。

ペアローンとは、1つの物件に対して夫婦、親子などがそれぞれ契約者となり2つのローンを組むことを指します。

一方のダブルローンは、2つの物件でそれぞれローンを組むため、両者は似て非なるものだと覚えておきましょう。

ペアローンのメリット・デメリットを以下にまとめるので、参考にしてください。

メリット

デメリット

・1人の収入で審査を受けるより借入上限額を増やしやすい

・住宅ローン控除を契約者各自が受けられる

・ローン借入時の諸費用が2本分発生する

・離婚した際の支払い、名義変更、借り換えなどに対応しづらい

まとめ

ダブルローンは売却と購入を自分の都合で進められる、仮住まいが不要といったメリットがある一方で金銭的な負担をはじめとしたデメリットも存在します。

そもそもローンが1本から2本に増えるため、誰しもが利用できるものではありません。

ダブルローンを検討する際は利用条件を把握したうえでシミュレーションをおこなうととともに、住み替えローンや通常の売却も含めて慎重に検討しましょう。