投資にあたって、建て替え予定の中古マンションが狙い目という話を耳にしたものの「実際にどんなメリットがあるのか?」「リスクが高そうでこわい」といった疑問や不安を抱えている人は多いでしょう。

本記事では、中古マンションの建て替え条件と現状を踏まえたうえで、建て替え予定の中古マンションを購入するメリット、デメリット・リスクについて解説します。

購入すべきか迷った際の判断基準もあわせて紹介するので、興味がある方は参考にしてください。

中古マンションの建て替え条件と現状

建物は年月の経過に伴い老朽化が進むものですが、国土交通省の調査によると、築後30年を超えるマンションの数は2013年以降急増しています。

引用元:国土交通省 | 老朽化マンションの建替え等の現状について

築後40年超のマンションは2013年時点で32万戸ですが、10年後には4倍の129万戸、20年後には8倍の264万戸と、うなぎ登りにその数を増やしていくと予想されています。

そこでまずは、中古マンションの建て替え条件とあわせて老朽化マンション建て替えの推移や現状を見ていきましょう。

中古マンションの建て替え条件

前提として、マンションの建て替えは建物が朽ち果てるからおこなうものではありません。

例えば鉄筋コンクリート造の法定耐用年数は47年と定められていますが、これはあくまで税務上の取り決めであり、適切なメンテナンスさえ行えばさらに30以上耐用年数を伸ばすことも可能です。

鉄筋コンクリート造校舎の法定耐用年数は財務省令で47年と定められていますが、これは税務上の扱いのために定められたものであり、50年程度で建物がボロボロになり使用できなくなることはありません。コンクリートがひび割れたり鉄筋がさびたりしても、適切なタイミング(おおむね築後45年程度まで)で長寿命化改修を行うことで、改修後30年以上、物理的な耐用年数を伸ばすことができます。

参照:文部科学省 | 長寿命化改修の基本的事項

つまり、マンションを建て替えるタイミングは建物の物理的な寿命だけでなく、管理組合の方針によるところが大きいといえるのです。

では実際に、マンションは築後何年程度で建て替えが実施されているのでしょうか。

ここでカギを握るのが、2002年に施行された「マンションの建替え等の円滑化に関する法律(以下、マンション建替法)」です。

この法律は、マンション建替事業、除却する必要のあるマンションに係る特別の措置、マンション敷地売却事業及び敷地分割事業について定めることにより、マンションにおける良好な居住環境の確保並びに地震によるマンションの倒壊、老朽化したマンションの損壊その他の被害からの国民の生命、身体及び財産の保護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

引用元:e-Gov 法令検索 | マンションの建替え等の円滑化に関する法律

簡単にまとめると、本法律はマンションの建て替えに関する手順をスピーディに進めることを目的とした法律で、2014年には一部が改正され、建て替えに必要な手続きや要件がさらに緩和されました。

引用元:国土交通省 | 「マンション建替法」改正について

また、マンション建替法では、建て替えに伴う費用の補助、融資制度、税制特例などの支援制度が用意されているため、これらの制度の利用条件に当てはまるかどうかが中古マンション建て替えを判断する目安のひとつとなるでしょう。

老朽化マンション建て替えの推移・現状

マンションの建て替えには、マンション建替法が深く関わっていると述べましたが、実際にどの程度の中古マンションが建て替えられているのでしょうか。

参照:国土交通省 | マンション建て替え等の実施状況

上記は2004年から2023にかけてのマンション建て替え件数の推移を表したグラフです。

マンションの建て替えには、マンション建替法が深く関わっていると述べましたが、実際にどの程度の中古マンションが建て替えられているのでしょうか。

赤色の部分がマンション建替法による建て替えですが、施行後に建て替え件数は右肩上がりの状態が続いています。

もちろん条件に当てはまるすべてのマンションが建て替えられるとは限りません。

あくまでひとつの目安であるため、管理組合や不動産会社に確認しながら建て替え計画の有無を確認するとよいでしょう。

建て替え予定の中古マンションは狙い目?購入するメリット

ここでは、建て替え予定の中古マンションを購入するメリットを紹介します。

資産価値が大幅にアップする

建て替えは修繕や改修とは違い、文字どおり既存の建物に代わって新しい建物を建てる行為を指すため、建て替え後の資産価値は新築マンション同様となります。

建物自体の根本的な性能が向上するのはもちろん、設備や防犯性を一掃することで、現代のニーズにあわせた価値を生み出すことも可能でしょう。

大規模修繕や改修が難しい問題にも対応できる

大規模修繕や改修では中古マンションのさまざまな問題を改善できますが、対処が難しい問題も少なくありません。

【大規模修繕や改修で改善が難しい問題の代表例】

  • 遮音性向上

  • オール電化

  • 建物全体のバリアフリー化

  • 防犯性向上

  • 容積率の緩和

仮に大規模修繕や改修で対応するとしても必要以上にコストがかかることから、費用対効果の面では現実的に難しくなるでしょう。

一方、建て替えならゼロからマンションの機能や設備を構築できるため、大規模修繕や改修のように制限を受けないメリットがあります。

デザインや景観が一新される

マンションのデザインや周囲の景観を一新できるのも建て替えのメリットです。

外見的なデザインを重視する購入希望者、入居希望者は珍しくありませんし、敷地内に新しく緑道や公園などを設けることにれば、従来にはなかった付加価値が生まれるでしょう。

建て替え予定の中古マンションを購入するデメリット・リスク

建て替え予定の中古マンション購入にはメリットだけでなく、デメリット・リスクも存在します。

代表的なデメリット・リスクを紹介するので、前述のメリットとあわせて把握し、検討に役立ててください。

建て替え費用の負担が大きい

建て替え予定の中古マンションを購入にするにあたり、知っておくべきなのが費用負担の大きさです。

引用元:国土交通省 | マンションの再生手法及び合意形成に係る調査

上記はマンション建替えに伴う区分所有者の平均負担額を年代別に示したグラフですが、負担額は年々上昇しており、2012年~2016年時にはおよそ1,100万円を平均で負担していることがわかります。

もちろん平均負担がいくらになるのかはケースバイケースではあるものの、かなり大きな金額を負担する可能性があることは頭に入れておいた方がよいでしょう。

修繕積立金を建て替え費用に使えない

修繕積立金は、外壁の整備、屋根の防水加工など、あくまで将来的な修繕にかかる費用を積み立てるものとなっています。

一方、建て替えは修繕と別ものであるため、修繕積立金を建て替え費用に充てることは原則できません。

入居中の場合は仮住まいが必要となる

建て替えとは、既存の建物を解体・撤去し、新たに建物を建てる行為を指すため、建て替えの工事中はマンションに住めません。

つまり、必然的に建て替えの間は仮住まいが必要となることを意味しています。

マンションの規模・階数によりますが、建築期間だけでも1年、タワーマンションとなれば2年近く要するケースも珍しくありません。

建築期間中は仮住まいの賃料が発生するだけでなく、引っ越し費用、賃貸に出している場合の家賃ロストなど、費用面でさまざまなデメリットがあることは覚えておきましょう。

強制的な立ち退きのリスク

現在の区分所有法では、マンションの区分所有者および議決権の4/5以上の賛成で建て替えを決議できるようになっています。

老朽要件、費用の過分性要件が撤廃され、区分所有者および議決権の各5分の4以上の賛成で建替え決議ができるようになった。

引用元:国土交通省 | 改正区分所有法による主な改正点 

では、全体の4/5以上が賛成しているにも関わらず、建て替えに賛同しない者がいる場合はどうなるのでしょうか。

区分所有法上の建替え決議に賛成しなかった区分所有者に対しては、建替え決議をした集会を招集した者は、建替えに参加するか否かを回答するように催告しなければなりません(区分所有法第63条第1項)。そして、催告に対し参加しない旨の回答をした者の他、そもそも回答しなかった者は参加しない旨の回答をしたものとみなされます(同法同条第2項・第3項)。

認可されたマンション建替組合は、これらの反対する者に対して区分所有権および敷地利用権を時価で売り渡すことを請求することができます(法第15条第1項)。

引用元:マンション管理・ポータルサイト | マンションの建替えに反対する区分所有者がいた場合、建替組合はどのような請求ができますか

つまり、建て替えに同意しない者に対しては「住んでいる部屋を時価で売り渡すことを請求できる」催告の対象となるのです。

建て替えに反対しながら、立ち退きも拒否するというパターンは通用しないため、覚えておきましょう。

個々の要望が反映されない

中古マンションを建て替えると建物の性能やデザイン、設備などは一新されますが、区分所有者の要望は反映されません。

所有者の要望を柔軟に反映できる戸建ての建て替えとは異なり、マンションをはじめとした集合住宅では各部屋の間取りや内装デザインなどをすべてカスタマイズするのは現実的に難しいからです。

したがって、中古マンションを購入したうえで自分のイメージにあわせてリノベーションしたい人にとっては、建て替えの魅力をそれほど感じないかもしれません。

建て替え予定の中古マンションを購入すべきか迷った際の判断基準

建て替え予定の中古マンション購入には、メリット・デメリットの両方が存在するため、判断に迷う人も多いでしょう。

そこで、迷った際の判断基準をいくつか紹介するので参考にしてください。

判断基準

考慮すべきポイント

マンションの築年数

築30年以内の中古マンションは建て替えまで長期間を要するケースが多い

賃貸経営の有無

建て替えの間は家賃収入が入らないことを想定する

マンション取得費以外のコスト

建て替えには高額な費用負担が発生するケースが多い

独自リノベーションの有無

建て替えでは個々のニーズを反映するのが難しい

住民の年齢層

建て替え予定のマンションは高齢者住民が多い傾向にある

まとめ

マンションの建て替えには高額な費用と時間がかかる一方で、資産価値の向上をはじめとした複数のメリットも存在します。

一概に建て替え予定の中古マンションが狙い目だとはいえませんが、個々のニーズによって向き不向きは変わるため、慎重な判断が求められます。

失敗しないためには、専門的な知識や経験が求められるため、まずは信頼できる不動産会社に相談してみるとよいでしょう。