離婚時に住宅ローンが残っている場合、住宅ローン控除を受け続けられるか気になる人は多いでしょう。国税庁は住宅ローン控除の適用条件を明確に提示しており、条件を満たしていなければ控除を受けることはできません。控除を受けるために最も重要なポイントは、住宅ローンの名義人が家に住み続けることです。

離婚後も住宅ローンの名義人が家に住む場合は控除を受けられますが、名義人ではない方が住む場合は控除を受けられません。ただし、住宅ローンの契約形態によっては、控除を受けるための対策を講じることも可能です。

この記事では、離婚後の住宅ローン控除について、ローンの契約形態別に解説します。控除を受けるための条件や必要な手続きについても詳しく説明していきます。

ローン契約者ではない方が家に住む場合の住宅ローン控除

離婚時の住宅ローンの扱いとして多いのは、ローンの契約者ではない方が家に住み続けるケースです。住宅ローンの名義人である夫が家を出て、妻が子どもと一緒に家に住み続けるというパターンはよくあるものです。

しかし、住宅ローン控除の適用条件である「住宅ローンの名義人が住み続けること」を満たさないため、そのままでは夫も妻も控除を受けられません。非名義人が家に住む場合に住宅ローン控除を受けるためには対策が必要です。

「引き続き住んでいる」要件に該当しないので受けられない

住宅ローン控除を受けるための適用要件の中に、「住宅の取得等の日から6か月以内に居住の用に供し、以後引き続いてその家に住んでいること」という項目があります。つまり、住宅ローンの名義人が取得した家に住み続けることが、控除を受けるための大前提です。

離婚後、住宅ローンの非名義人である妻が家に住み続ける場合、この「引き続き住んでいる」という要件を満たさないことになります。例え離婚してから妻が働く、あるいは離婚する前と同様に働き続けて住宅ローンの返済を行うとしても、名義人ではないために控除の対象にはなりません。

住宅ローンの名義を変更すれば受けられる

住宅ローン控除を受けるためには、住宅ローンの名義人が家に住み続けることが必要です。そのため、離婚後に非名義人が家に住む場合は、住宅ローンの名義を変更すれば控除を受けられます。例えば妻が非名義人であった場合は、住宅ローンの名義を家に住み続ける妻に変更します。

ただし、住宅ローンの名義変更には金融機関の審査が必要です。妻の勤続年数が夫と同等以上で、収入が夫よりも多いなどの状況でない限りは、審査を通過するのは難しくなります。

借り換えローンを利用する

名義を変更するほかに、妻の名義で借り換えローンを利用するという方法もあります。妻が新たに住宅ローンを借り入れ、既存のローンを一括返済します。この場合、妻が住宅ローン控除の適用要件を満たすことになるため、控除を受けることが可能です。

ただし、借り換えローンを利用する場合も、妻が金融機関の審査を受けることになります。審査に通るための条件は、妻が相応の勤続年数や収入を持っていることです。また、審査結果次第では、元のローンより返済期間が伸びたり金利が上がったりする可能性もあります。

なお、住宅ローン控除の適用条件の一つに「返済期間が10年以上」というものがあるため、借り換えローンを利用する際は、返済期間にも要注意です。

ローン契約者が家に住む場合の住宅ローン控除

離婚後も住宅ローンの名義人が家に住み続ける場合は、住宅ローン控除の適用要件を満たすため、引き続き控除を受けられます。実際のところ、住宅ローンの名義人が家に住み続けるのは、控除を受け続けるために最も手間がかからない方法です。

最も確実に控除を受けられる

住宅ローン控除の適用要件の中で最も重要なのが「住宅ローンの名義人が家に住み続けること」です。離婚後も住宅ローンの名義人が家に住み続ける場合は、この要件を確実に満たせます。

たとえば、夫婦共有名義で住宅ローンを組んでいたとしても、離婚後に名義人である夫が家に住み続ける場合は、夫は引き続き控除を受けられます。また、もともと夫の単独名義で住宅ローンを組んでいた場合も、離婚後に夫が家に住み続けるのであれば、控除を受け続けることが可能です。

実際のところ、非名義人が住むことにすると、後に名義人が返済滞納を起こして強制退去させられることになってしまったり、金融機関から何らかの契約違反を指摘されて一括返済を求められたりなどのケースは多数あるものです。

離婚すると夫婦間のコミュニケーションが取りづらくなるため、住宅ローンに関するトラブルも起こりやすくなります。住宅ローン控除を確実に受けられるだけでなく、トラブルを避けるという意味でも、ローン契約者が家に住み続けるのは最善の選択肢と言えるでしょう。

共有持分を追加取得した場合も確定申告すれば可能

離婚に際して、住宅ローンの名義人が元配偶者の共有持分を取得するケースがあります。例え夫の単独名義でローンを組んだとしても、家は財産分与の対象となり、妻も家に関する半分の持分を取得することになります。離婚時の財産分与に際して、共有持分は相手方への売却または譲渡が可能です。

このように、離婚を機に共有持分を追加取得した場合は、新たに取得した分についても住宅ローン控除を受けられます。ただし、追加で取得した持分について控除を受けるためには、確定申告が必要です。

一方で、共有持分の売却は一般的に価格が低く、お互いが納得する金額での売却は難しいのが実態です。また、譲渡するとしても金額によっては税金が課税されるため、あまりおすすめの方法とは言えません。

住宅ローンの名義が共有になっている場合は?

2024年時点では共働き夫婦が増えていることもあり、夫婦でペアローンを組んだり連帯債務で住宅ローンを借りたりするケースが増えています。住宅ローンの名義が夫婦の共有になっている場合、離婚後の住宅ローン控除はどのようになるのでしょうか。

家に住み続ける方だけが受けられる

住宅ローンの名義が夫婦の共有になっている場合、離婚後も家に住み続ける方だけが住宅ローン控除を受けられます。つまり、家を出ていく方は、たとえローンの返済を続けていたとしても、控除を受けられません。

具体的には、夫婦でペアローンを組んでいたケースでは、離婚後に家に住み続ける方は自分の分の借入金について引き続き控除を受けられます。一方、家を出ていく方は、控除の適用要件である「引き続き居住していること」を満たさなくなるため、控除を受けられなくなります。

同様に、夫婦連帯債務で住宅ローンを組んでいた場合も、家に住み続ける方だけが控除を受けられます。連帯債務であっても、控除の適用は居住要件を満たしている方にしか認められません。

財産分与によって家を取得した場合

離婚時の財産分与によって、住宅ローンが残っている家を取得するケースがあります。例えば、もともと夫の単独名義だった家を、離婚時に妻が取得するような場合です。

家を取得してローンの名義人となった場合は受けられる

例えば、もともと夫の単独名義だった住宅ローンについて、離婚時に妻がローンの借り換えなどに成功し、ローンの名義人になったとします。この場合は、妻は住宅ローン控除の適用要件を満たすことになるため、控除を受けられるようになります。

ただし、住宅ローン控除を受けるためには、借入金の返済期間が10年以上であることが条件です。そもそも残っている住宅ローンの返済期間が10年未満だった場合は、借り換えの際に返済期間が10年以上になるようにするなど、返済期間を調整する必要があります。

また、繰り返しになりますが、借り換えローンの利用は新たな審査を受けることが条件です。上記の例では、妻に対して融資してくれる金融機関を探す必要があります。

負担付贈与を選択すると受けられないので要注意

財産分与には「清算的財産分与」と「負担付贈与」の2種類があります。清算的財産分与は夫婦の共有財産を分割することを指す一方で、負担付贈与は一方が財産を受け取る代わりに何らかの債務を引き受けることを指します。

住宅ローンが残っている家を負担付贈与で取得した場合、住宅ローン控除を受けることはできません。これは、負担付贈与が「贈与」とみなされるためです。

住宅ローン控除の適用要件の中には「贈与による取得でないこと」という項目があります。負担付贈与は、例え住宅ローンの債務を引き受けたとしても、あくまで贈与に該当するため、この要件を満たしません。

また、タイミングにも注意が必要です。離婚が成立する前に家の所有権を移転すると負担付贈与の対象になります。清算的財産分与の対象となるタイミングは離婚が成立してから2年以内です。

まとめ

離婚後の住宅ローン控除については、住宅ローンの契約形態や家の取得方法によって、受けられる場合と受けられない場合があります。

住宅ローンの名義人が家に住み続けるのは、控除を受け続けるために最も確実な方法です。一方、ローン契約者ではない方が家に住む場合は、名義変更や借り換えなどの対策が必要になります。

夫婦共有名義の住宅ローンについては、離婚後に家に住み続ける方だけが控除を受けられます。家を出ていく方は、控除を受けられなくなるので注意が必要です。

財産分与で住宅ローンが残る家を取得する場合も、借り換えローンの利用などによってローンの名義人になれば控除を受けられるようになります。ただし、負担付贈与を選択すると控除が受けられなくなるので、清算的財産分与を選ぶことが重要です。