アパート経営の成否は、最終的には出口となる売却で決まります。そのため、いつ、どのような方法でアパートを売却するかが重要です。

売却のタイミングを判断するポイントとして、将来を含めたアパートの収益性や税金の負担、不動産市場動向などいくつかあります。

そこでこの記事では、アパートの売却について次の点を解説します。

  1. アパート売却のタイミングを判断する方法

  2. アパートを高く売却するコツ

  3. 取り壊して更地にすべきかの判断基準

  4. アパート売却の流れ

  5. アパート売却にかかる費用と税金

ぜひ参考にしてください。

アパート売却のタイミングを判断する4つのポイント

最初に、アパート売却のタイミングを判断するポイントについて解説します。

利回りの高さ

1つめは、利回りの高さです。

利回りは、アパート経営の収益性を示す指標として次の2つがあります。

・表面利回り=「年間家賃収入」÷「投資額」

・実質利回り=「年間純収益」÷「投資額」

「表面利回り」の計算には、毎年かかる税金や保険料、修繕などの維持費が考慮されていません。1つの判断指標ではありますが、より正確な判断のためには年間の諸経費を含めて計算する「実質利回り」が重要です。

築年数などで目安となる利回りは異なりますが、一定の利回りが維持できているタイミングで売却することで、売却価格は高くなり売却差益を得やすくなります。

アパート経営の成否を考えるとき、運用期間中の収益(インカムゲイン)だけでなく、売却差益(キャピタルゲイン)も大切です。利回りの高さも売却のタイミングを判断する1つの基準といえるでしょう。

デッドクロスを迎えたとき

デッドクロスは、「ローンの元金返済額が減価償却費を上回る状態」を指します。

デッドクロスになると、帳簿上利益は出ていても資金繰りが悪くなります。これは、手元の資金繰り、つまりキャッシュフローと帳簿上の収支は異なるためです。

実際はローン返済について毎月支出がありますが、帳簿上「利息」部分は経費計上できる一方「元金部分」は経費となりません。

一方、減価償却は、不動産の取得費を使用可能期間(耐用年数)に応じて費用を分割し、少しずつ経費として計上する手続きです。土地は時間の経過にともなって価値が減少する資産ではないため減価償却できませんが、建物は減価償却費を経費として計上できます。

元金返済額が減価償却費を上回ると、税引き前の収支に変化はなくても帳簿上の利益は黒字が増えるため、所得税額が増えます。その結果、税引き後のキャッシュフローが悪くなり、最悪の場合黒字倒産する可能性があります。

デッドクロスを迎えるときは、アパート売却を判断するタイミングの1つです。

税率が変わるタイミング(所有期間が5年を超えたとき)

アパートを売却するとき、利益(譲渡所得)が出れば譲渡所得税がかかります。譲渡所得税は、譲渡所得に税率を乗じて計算しますが、税率は不動産の所有期間によって以下のように異なります(表1)。

表1

 

所有期間

所得税

住民税

短期譲渡所得

所有期間5年以下

30.63%

9%

39.63%

長期譲渡所得

所有期間5年超え

15.315%

5%

20.315%

短期譲渡か長期譲渡かで税率は、およそ40%と20%の違いがあり、税金の負担が大きく異なります。そのため、長期譲渡所得になるか否かが売却のタイミングを判断する1つです。

なお、所有期間は、取得した日から売却した年の1月1日までの期間で計算します。

参照:国税庁「土地や建物を売ったとき」
 

周辺環境や不動産相場の変化

アパート経営は、一定期間将来の需要を予測し捉えることが必要です。そのために、周辺環境や不動産相場の変化で売却するタイミングを考えることも大切になります。

アパートの入居者層が周辺の企業や工場、大学などに依存している場合、縮小や撤退の見通しが賃貸経営に大きく影響します。あるいは人口減少に伴う商業施設の撤退などで、入居者を募集しにくくなることも考えられるでしょう。

都心部など一部の地域を除いて、日本は人口減少が進むことが予測されます。地域差があるものの、今後の人口減少が避けられない地域もあります。人口減少は不動産価格にも影響するため、人口動態や不動産価格の推移も注意する必要があります。

アパートを高く売却するコツ

では、アパートをできるだけ高く売却するためにはどうすればよいのでしょうか。ここでは高く売却するコツについて解説します。

収益性の改善(空き室率と家賃水準)

売却する前にできるだけ収益性を改善することが大切です。

「アパート売却のタイミングを判断する4つのポイント」で解説したように、収益性を高めることで購入者の需要が増え、高く売却しやすくなります。

そのためには、空き室率の改善、家賃水準の維持が必要です。

空き室率を下げるためには、リフォームや即日入居できる備え付けの家具・家電の設置、フリーレントの活用などが考えられます。一時的に経費をかけても空き室率を下げる判断が必要な場合があるでしょう。

ただし、空き室率を下げるために安易に家賃を下げると利回りが悪くなり収益性に影響します。売却を意識して、できるだけ家賃水準を維持しながら入居率を高める対策が必要です。

滞納や入居トラブルがあれば解決しておく

滞納や何らかの入居トラブルがある場合は解決しておくことが大切です。

滞納している入居者がいると収益に影響するだけでなく、購入者はその対応についても引き継がなけれなならず、物件自体に興味があっても購入判断が難しくなるため売却価格は下がります。

滞納者がいる場合、滞納者や連帯保証人に内容証明を送るなどを行い、それでも家賃を払ってもらえない場合、法的措置をとって強制退去してもらわなければなりません。

時間を要することもあるため、早めに対策することが大切です。

また、音の問題などの入居トラブルを抱えている場合も、管理会社と相談しながら解決しておくことが必要です。入居トラブルがあると、関係がない入居者の契約期間が短くなる、あるいはなかなか入居者が決まらないなどの影響も生じるため購入希望者が減る可能性があります。

不具合箇所があれば修繕しておく

不具合箇所があれば、最低限の修繕はしておくことが大切です。

物件の状態は売却や買取価格に直接影響しますし、見た目を改善することで購入者も検討しやすくなります。

ただし、修繕する場合、費用対効果をしっかりと検討することが大切です。水回りの修繕など建物全体の価値に大きく影響する部分は、修繕する効果は高くなります。

また、低コストでできる壁の塗り替えなどであれば、買主に維持管理面や見た目をアピールしやすくなるでしょう。

一方で、費用がかかる大規模修繕やリノベーションは、アパートの売却相場や需要を含めてその費用が回収できるかを慎重に見極める必要があります。

【アパートの売却方法】オーナーチェンジか更地かの判断基準

アパートを売却する方法として、収益不動産として売却すべきか、建物を取壊し更地にして売却すべきか迷うこともあると思います。その判断基準について解説します。

基本的には、アパートを売却するとき、解体せず収益不動産として売却するほうがよいでしょう。

なぜなら、解体費用がかかるうえ入居者との立ち退き交渉は簡単ではなく、一般的に立ち退き料もかかるためです。

ただし、次のように建物を解体して更地を検討したほうが良いケースもあります。

  • 老朽化して稼働率が下がっている

  • 家賃水準が低く、修繕費用がかかる

  • 土地が広い、あるいは都市部で容積率を活用しきれていない など

収益不動産として売却する場合、収益還元法で不動産の価格を査定し売却価格を決めます。収益還元法は、分かりやすくいうと、対象不動産が将来生み出すと予測される収益をもとに不動産の価格を算出する方法です。

この点、都市部で土地が広い物件などでは、収益性で算出するより土地の資産価値が高いケースがあります。例えば、収益不動産としての価格を算出すると3,000万円でも、土地(更地)だけの価値であれば1億円などの場合です。

一定規模の広さがあれば、更地にすることで戸建ての分譲地などの需要もあり、購入検討者が増え、高値で売却しやすくなる可能性もあります。

解体費用や入居者の退去費用などを含めて判断する必要がありますが、物件の状況によっては、更地にして売却するほうがよいケースもあるということです。

アパート売却の流れ

ここでは、アパート売却の流れについて解説します。

不動産会社に査定依頼

まずは、複数の不動産会社に査定を依頼します。

売却を成功させるには、収益物件の売却実績があり信頼できる不動産会社に依頼することがポイントです。

査定価格だけでなく、価格算出の根拠や販売方法、収益不動産の販売実績、担当者の経験などを比較し、信頼できる不動産会社を選びましょう。

不動産会社と媒介契約締結

売却を依頼する不動産会社が決まれば媒介契約を締結します。

媒介契約は売却活動の内容や報酬について不動産会社と交わす契約で、3つの種類があります。表2は、それぞれの違いをまとめたものです。

表2

媒介契約の種類

一般媒介契約

専任媒介契約

専属専任媒介契約

仲介を依頼できる不動産会社の数

複数社に依頼可

1社のみ

1社のみ

指定流通機構(レインズ)への

登録義務

なし

あり

あり

活動状況の報告義務

なし

2週間に1回以上

1週間に1回以上

自己発見取引

(売主自身で買主を見つけること)

できる

できる

できない

レインズとは、全国の不動産会社が売買物件を閲覧できるネットワークシステムで、レインズに登録されることで売却物件の情報が拡散され、他の不動産会社から購入希望者の紹介が入ります。

一般媒介契約のみレインズの登録義務がなく、同時に複数の不動産会社に売却を依頼できます。需要が高い物件であれば一般媒介契約で進めることも考えやすいですが、他の契約と比べ不動産会社のモチベーションが下がりやすい、報告義務がないなどの点には注意が必要です。

売却活動

媒介契約を締結すれば売却活動を開始します。

レインズのほか不動産ポータルサイトや不動産会社の自社サイトへ物件情報を登録し、不動産会社が取引するオーナーなどへの紹介も行われます。

売却期間中、反響や問合せの状況を見ながら、販売方法や価格の見直しが必要となるケースもあるでしょう。

内見希望があれば対応し、購入申し込みが入れば契約条件や売買価格について買主と調整します。

売買契約締結

売買金額、契約条件で買主と合意できれば売買契約を締結します。

売買契約締結前に重要事項説明が行われます。重要事項説明は、物件の状況や権利関係、契約条件など、取引にあたり特に重要な事項を売買契約前に確認する手続きです。

その後、売買契約書に署名、押印し、買主から手付金を受領します。不動産会社によって対応は異なりますが、売買契約時に仲介手数料の半金を支払う場合もあります。

決済・引渡し

契約当事者、不動産会社、司法書士が同席し、売買代金の支払と引渡が行われます(通常は同時決済)。

買主がローンを利用する場合、融資が実行され、売買代金の残代金の支払いをします。このとき、固定資産税清算金など清算もあわせて行うため、それぞれ領収書の準備が必要です。

決済が終われば、アパートの鍵やアパートに関連する資料などを買主に引渡します。

決済・引渡しが完了すると、司法書士が所有権移転登記の手続きを行い手続きは終了です。もしローンが残っている場合は、抵当権の抹消手続きもあわせて行います。

必要書類の準備は、仲介不動産会社に確認しながら進めましょう。

確定申告

アパートを売却して利益が出た場合、原則、売却した翌年の2月16日から3月15日までに確定申告しなければなりません。確定申告書の提出先は、納税地の税務署です。

なお、不動産譲渡所得は申告分離課税に該当するため、総合課税である給与所得や事業所得とは分けて税額を計算します。

アパートを売却して利益が出なかった場合、確定申告の必要はありません。

アパートの売却にかかる費用

ここではアパートの売却にかかる費用について解説します。

仲介手数料

売却を依頼する不動産会社の仲介手数料です。

仲介手数料は、売買金額によって変わり、宅地建物取引業法において上限が定められています(表3参照)。

表3

売買金額

仲介手数料(上限)

200万円以下部分

売買価格×5%+消費税

200万円超え400万円以下の部分

売買価格×4%+消費税

400万円超えの部分

売買価格×3%+消費税

売買金額が400万円を超える場合の簡易的な方法として、「売買金額×3%+6万円+消費税」で計算できます。

仲介手数料は、売買契約時に半金、引渡し時に半金支払う不動産会社が多い傾向です。

抵当権抹消費用

売却時にローンが残っている場合、抵当権抹消費用が必要です。

金融機関が融資の担保として設定している抵当権を抹消しなければ売却できません。

抵当権抹消費用には、登録免許税と司法書士に依頼する場合の報酬、ローンの繰上返済手数料があります。

登録免許税は数千円程度で、司法書士報酬は依頼先によって変わりますが2~5万円程度です。ローンの繰上返済手数料も金融機関によって異なり数千円から3万円程度の費用がかかります。

立ち退き料

アパートを取り壊し更地にして売却する場合、入居者がいれば立ち退き料が必要です。

日本の借地借家法では、入居者の権利が強く守られており、正当な理由がなければ貸主側からの解約は原則として認められません。

定期借家契約であれば、契約で定めた契約期間がくれば解約できますが、一般的な賃貸借契約ではオーナーから解約するときは「正当な事由」が必要とされています。

そのため、法律上の規定や義務があるわけではありませんが、オーナーの都合で退去してもらう場合、その損害を補償するものとして立ち退き料が必要となります。

一般的な立ち退き料の内訳は次のとおりです。

  • 引越し代

  • 不動産会社の仲介手数料

  • 新居の敷金と礼金 など

立ち退き料の相場は、おおむね家賃の6ヶ月程度となっています。

測量費用

アパートを売却するとき、土地の境界が明確でなければ確定測量をして売却する必要があります。確定測量をしないことを契約条件として売却することも可能ですが、原則として、土地を売却する際は境界ポイントや土地面積を明確にする必要があります。

特に地価が高い地域であれば、引き渡し後に売買契約書の面積と実際の面積が違うと、どちらかが著しく損をする可能性があります。

確定測量は、隣地所有者立ち合いのもと境界について同意し、正確な面積を測量する作業です。通常は、土地家屋調査士に依頼し、確定測量図の作成から登記申請まで代行してもらうのが一般的です。

確定測量にかかる費用は、境界や隣地所有者の数、土地面積などによって変わります。目安としては、30~80万円が相場ですが、土地が公道など官有地と接している場合、費用は高くなる傾向です。

アパートの売却にかかる税金

次に、アパートの売却にかかる税金について解説します。

印紙税

印紙税は、売買契約書などの課税文書を作成する際にかかる税金です。収入印紙を貼付することで納付します。印紙税額は、契約金額によって異なります。

なお、令和9年3月31日までに作成されたものは、軽減措置が適用されます。下表は軽減後の税率をまとめたものです(表4参照)。

表4

契約金額

印紙税額(軽減後)

10万円超え50万円以下

200円

50万円超え100万円以下

500円

100万円超え500万円以下

1,000円

500万円超え1,000万円以下

5,000円

1,000万円超え5,000万円以下

1万円

5,000万円超え1億円以下

3万円

1億円超え5億円以下

6万円

5億円超え10億円以下

16万円

10億円超え50億円以下

32万円

50億円超え

48万円

参照:国税庁「不動産譲渡契約書」及び「建設工事請負契約書」の印紙税の軽減措置の延長について

譲渡所得税

アパートを売却して利益(譲渡所得)が出た場合、不動産譲渡税(所得税・住民税)がかかります。

譲渡所得の計算方法は次のとおりです。

譲渡所得=売却収入(譲渡価格)-取得費用-譲渡費用

取得費用は、アパートを取得したときにかかった費用です。土地・建物の購入代金や建物の建築費のほか、購入時の仲介手数料や登記費用、印紙代などです。建物価格については、経過年数に応じた減価償却を加味して算出します。

一方、譲渡費用は、アパートを売却するときにかかる費用です。売却時の仲介手数料のほか、印紙代、測量費用などが含まれます。

そして、譲渡所得に税率を乗じて譲渡所得税を計算します。

譲渡所得税=譲渡所得×税率

税率は、譲渡所得に「税率が変わるタイミング(所有期間が5年を超えたとき)」で解説した税率をかけたものが譲渡所得税、住民税となります。

消費税

不動産売買において、土地には消費税がかかりません。消費税の対象となるのは建物だけです。また、個人間の売買については、マイホームは事業用の資産でないため消費税はかかりません。

ただし、個人でもアパートなど収益物件を売却すると消費税がかかる場合があります。

消費税は、課税事業者と呼ばれる事業者が納税する税金です。課税事業者とは、基準期間における課税売上高が1,000万円を超える事業者を指します。

つまり、アパートを売却したときに建物価格が1,000万円を超えると、翌々年には課税事業者となり、その年に何らかの売上があれば、消費税の納税義務が生じます。すでに課税事業者であれば個人でも消費税の納税が必要です。

まとめ

最終的に、売却価格によってアパート経営の成否が決まるため、いつ売却するかは非常に大切です。アパートを売却するタイミングを判断する方法として以下の点を紹介しました。

  • 利回りの高さ

  • デッドクロスを迎えたとき

  • 税率が変わるタイミング

  • 周辺環境や不動産相場の変化

デッドクロスや税率が変わるタイミングは客観的に判断できますが、利回りの高さや周辺環境によって今後、アパート経営の収益性がどのように変わるかを予測することは簡単ではありません。

そのため、収益不動産の取扱い経験が豊富な不動産会社などに相談しながら判断してもよいでしょう。

その結果、売却する方向で検討するのであれば、高値で売却するために、空き室率の改善、滞納者、入居トラブルなどの問題があれば対策していくことが大切です。ぜひ参考にしてください。