実家の相続が考えられる時期になると、実家は売却した方がいいのか、でも売却すると後悔するのではないかなど悩みや不安を持つ人も多いのではないでしょうか。実家の売却によって後悔に至る理由はいくつかありますが、主な理由は相続やお金にまつわるものです。
この記事では、実家の売却によって後悔するに至りやすい理由を挙げるとともに、相続や売却の流れ、知っておくべき税金の知識などについて解説します。
実家の売却で後悔する理由
実家の売却によって後悔に至る理由として多いのは、主にお金と相続にまつわるものです。特に実家が空き家になるとお金の後悔につながりやすくなります。
実家がずっと空き家だった
実家が空き家になっている場合は特に要注意のポイントがあります。戸建とマンションとに関わらず、人が住んでいないと家は汚れやすく劣化も早まるものです。日常的な掃除や適切な修繕などを行わずに放置していると、家はどんどん傷んでいきます。傷んで劣化が進んだ家は買い手がつきにくく、売ろうとしても買い手がつかないと値段を下げざるを得ません。
そのほか、害虫や匂いが出るなどの原因により、近隣住戸からのクレームに発展する可能性もあります。実家が空き家になった場合は、売ることを決めたならなおさら、掃除やメンテナンスなどに気を遣うことが重要です。
相続した実家を売却してお金を損した
相続した実家が空き家になるケースは多いものです。空き家は早く売った方が良いものの、周辺相場を把握するなどの準備を怠って売り急ぐと結果的に損をすることがあります。
また、家の相続と売却にはそれぞれ別々の税金がかかる点に要注意です。家を相続すると相続税が、家を売却すると譲渡所得税という税金が別々に課税されます。双方の税金がいくらになるのか把握したうえで売却活動を進めないと、売却額が税金の総額に満たず結果的に損をすることにつながります。
相続した実家の売却期間が長期化した
相続した実家は古くなっていることが多く、売り出したもののなかなか買い手がつかないというのはよくあることです。相続したものであっても、売ろうとしているものであっても、家を所有していると所有者に対して固定資産税が課税されます。
売却期間が長期化すると心理的な負担に加えて金銭的な負担もかさんでいくため、相続した実家の売却にあたっては、なるべく早く売れるようにするための準備が重要です。
適切な相続の手順を踏んでいなかった
特に相続税納税の期限や実家を売却するために必要な期間、それぞれに必要な手続きなどを把握しておかないと、不必要に売り急いでしまったり、納税期限に間に合わず延滞金を課税されてしまったりということになりかねません。
相続にまつわる後悔としては、家族間のコミュニケーションが不足していた結果、遺族間の関係に亀裂が入ってしまうこともあるでしょう。また、売り急いでしまった結果、遺品整理や形見分けなどの時間を満足に取れず、思い入れのあるものを失ってしまうなどのことも考えられます。
相続による実家の売却は特に通常の家の売却よりも感情的な側面が強くなるため、後悔しないためには必要な書類や準備の内容などを把握しておき、時間的に余裕を持った対応をすることがポイントです。
実家の相続および売却の流れ
相続とは具体的にどんな手順を踏むものなのか、疑問に感じる人もいるのではないでしょうか。実家の相続と売却について具体的な手順を解説します。
実家を相続する時にやること
相続した実家を売却する場合は、売却手続きの前に相続の手続きが必要です。相続の手続きは具体的に以下のような流れになります。
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遺言書があるか確認する
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相続人を確定する
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相続財産を調査する
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相続放棄や限定承認の有無を確認する
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遺産分割の協議をする
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相続税の申告と納付
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実家の相続登記をする
遺言書があった場合は、遺言書の内容に従って遺産分割などを進めることになります。しかし、遺言書が見つからなかった場合は、実家以外にも相続財産が無いかなどを確認してから遺産分割協議を進めましょう。
遺産分割協議とは、相続人の間で遺産の分け方や割合などを決める話し合いのことを指しています。なお、遺産分割協議は相続人全員が参加しないと無効になるため、あらかじめ誰が相続人になるのか把握することが必要です。
遺産分割協議によって相続人それぞれの取り分が決まったら、相続登記と相続税の申告を進めます。なお、相続手続き期限は、被相続人が亡くなってから10ヶ月以内です。
実家を売却する時にやること
実家を売却する時の具体的な流れは以下のようになります。
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売却のために必要な書類を準備する
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不動産業者の査定を受ける
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不動産業者と媒介契約を締結する
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買い手を探す売却活動を進める
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買い手と売買契約を締結する
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買い手への引渡しを行う
また、売却のために必要な書類とは主に以下のものを指します。
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実家の所有権を証明する登記済証
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印鑑証明書
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実家を建築した時に発行された建築確認済証と検査済証
印鑑証明書の取得には区役所などに行って取得手続きを要するほか、建築確認済証などが手元にない場合は行政の窓口へ発行依頼をする必要があります。各窓口は平日にしか開いていない場合もあるので、事前のスケジュール調整が必要です。
なお、一般的に家を売り出してから売れるまでにかかる期間は4ヶ月~6ヶ月です。相続税の納税期限は10ヶ月なので、納税期限を意識した事前準備がポイントになります。
相続した実家を売却する時のお金について
実家の相続や売却にはどんなお金がかかるのか、不安を感じる人も多いのではないでしょうか。相続と売却にかかる税金について金額や税率を提示するとともに、利用できる税控除の制度について解説します。
相続と売却によってかかる税金
相続によって課税されるのは相続税です。また、実家を相続する際には相続登記が必要です。相続税に加えて相続登記の登録免許税がかかります。なお、実家がローン返済中だった場合は、抵当権の抹消手続きを要します。抵当権抹消手続きにも登録免許税の支払が必要です。各税金の金額または税率は以下の通りです。
税金の種類 |
金額または税率 |
相続税 |
法定相続分に応ずる取得金額によって10%~55% |
相続登記の登録免許税 |
固定資産税評価額の0.4% |
抵当権抹消に関する登録免許税 |
1つの不動産につき1,000円 |
つづいて、実家の売却によって課税される税金は以下の表の通りです。
税金の種類 |
金額または税率 |
売買契約書に貼付する 印紙の印紙税 |
契約金額によって400円~60万円 2027年3月31日までに契約書を作成した場合は軽減税率を適用可能 |
不動産売却額が購入額を 上回った場合の譲渡所得税 |
購入した翌年の1月1日から5年以内に売却する場合 譲渡所得金額(売却によって得た利益)の15% 購入した翌年の1月1日から5年経過後に売却する場合 譲渡所得金額(売却によって得た利益)の39% |
利用できる税金控除の制度
相続税と譲渡所得税のどちらも税金控除の対象となります。相続税の基礎控除額を算出する計算式は以下の通りです。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
なお、親などの被相続人が生きている時にマイホームとして居住している実家を売却する場合は、最高で3,000万円の税額控除を適用できます。
また、被相続人が一人暮らしだった場合は、相続してから3年経過した年の12月31日までに売却を完了させると、譲渡所得に対して3,000万円の控除を適用可能です。ただし、2024年以降は相続人が3人以上いると特別控除額が2,000万円までに制限されます。
控除適用には他にも複数の条件があるため、あらかじめ国税庁のホームページで確認するのがおすすめです。
相続した実家の売却を成功させるための対策
実家が古くなっているなどの場合は特に、売ろうとしても実家が売れるのか不安に感じる人もいるでしょう。ここからは、実家を売却するにあたって売却を成功させるために取れる対策について解説します。
相続した実家を売るタイミング
実家は相続する前に売った方が良いのか、後の方が良いのかと疑問に思う人は多いのではないでしょうか。売却額が実家を購入した時の購入額を上回るのであれば、相続前に売るのが適切です。一方で、遺産総額が相続税の基礎控除を上回り、相続税の納税が必要なのであれば相続後の売却がおすすめです。
実家を相続する前に売却すると、3,000万円の譲渡所得特別控除が適用されるため、相続後に売却するよりもお金が残ります。
一方で、遺産総額が相続税の控除額を上回る場合は相続税が発生します。実家を売却して現金を相続するよりも、不動産を相続する方が相続税の課税率は下がるため、この場合は相続後に売却する方がおすすめです。
実家の売却を検討する時には相続税や譲渡所得税などの税金を計算して、どのタイミングで売却すれば最も多くのお金を残せるか、あらかじめ把握しておくと良いでしょう。
掃除やメンテナンスをしておく
実家であるとないとに関わらずですが、長期間放置されて汚れた家や修繕を要する家などは、売値が下がったり売却期間が長引いたりする可能性があります。実家が古くなっている場合は特に要注意です。
なお、リフォームした方が売りやすいのではと考える人もいるかもしれません。しかし、リフォームや設備の交換などには多額の費用がかかります。築古の家をリフォームする場合は特に、リフォーム費用が売却額を上回ることも少なくありません。また、後々自由にリフォームできる方が買い手に好まれることもあります。
複数の不動産業者を比較する
実家を売却するにあたっては、まず実家の売却額がいくらになるか、不動産業者の査定を受けることになります。査定を受ける時には、複数の不動産業者に査定を依頼することが重要です。1社だけに依頼しても、査定額が妥当なのか判断できません。
また、不動産業者については複数ある選択肢の中から1社を選んだ方が、自分に合った不動産業者を選ぶことにつながります。同時に2~3社の不動産業者へ査定依頼するのが適切です。
不動産業者を絞り込む上では、例えば実家が戸建なら戸建の仲介実績がある不動産業者、マンションならマンションの仲介実績が豊富な所を選ぶと良いでしょう。また、査定額や不動産業者の得意分野に加え、営業マンの人柄なども参考にするのがおすすめです。
不動産業者とのコミュニケーションを欠かさない
不動産業者を決めて媒介契約を結んだら、売却活動中はなるべく不動産業者とのコミュニケーションを取るようにしましょう。不動産業者の営業マンは同時並行で複数の売却案件を進めているため、売主として営業マンに意識させることが売却活動の促進につながります。
営業マンに後回しにされてしまうと、販売期間が長引いたり売却条件が納得いかないものになったりする可能性もあるでしょう。満足のいく売却活動にするためには、売主としてのアピールも重要なポイントです。
なお、実家が古くなっていたり不便な場所に建っていたりといった場合は、不動産業者に買取を依頼するのもおすすめです。
通常の不動産売却は仲介と呼ばれる方法であり、普通の消費者の中から買い手を探します。しかし、築古・不便といった条件の良くない物件は、あまり消費者に好まれない傾向が強いものです。
一方で、不動産買取は不動産業者に家を売却する方法であり、査定で提示される買取額に合意できれば、買い手を探すステップを省略して実家を売却できます。買取は仲介よりも早く実家を売れるほか、仲介では売りにくい物件も売却可能です。また、不動産業者によっては実家の中に残置物があっても買取ってくれます。
仲介では売り出してから実際に売れるまで4ヶ月~6ヶ月程度の時間がかかります。一方で、買取を依頼する場合の必要期間は1週間~1ヶ月程度です。ただし、全ての不動産業者が買取に対応しているわけではないので要注意です。買取の不動産業者も仲介の場合と同じように、複数の不動産業者を比較することがポイントになります。
実家の売却によって得られるメリット
最後に実家を売却するとどんなメリットがあるのか、また放置状態にしてしまった場合のリスクなどについて解説します。
毎年課税される税金を払わなくて良くなる
実家を売却する金銭的なメリットの1つは固定資産税の支払が不要になることです。住んでいる・住んでいないに関わらず、不動産を所有しているとその年の1月1日時点における所有者へ固定資産税が課税されます。
なお、実家を空き家にしている場合は特に固定資産税に要注意です。固定資産税は課税標準額の6分の1だけ課税されるのが通常です。しかし実家が「特定空き家」に指定されると、6分の1になる減税措置が適用されなくなってしまいます。
税額が増えるのは、家を長期間にわたって空き家にしていると、倒壊したり不衛生な状態になって近隣への迷惑になったりする可能性があるからです。実家が「特定空き家の指定」を受けてしまうと、それだけで固定資産税が6倍になるため、空き家のままにしておくよりは売却した方が金銭的なメリットが発生します。
修繕や災害対策が不要になる
実家が古くなっている場合は特に、地震や台風などの災害に対する備えが必要なうえに、設備の交換など修繕が発生することも少なくありません。特に、1981年5月31日以前に建築確認を受けている建物は旧耐震基準で建てられています。
日本の各地で震度の大きい地震も起こるようになっている現代では、耐震工事をせずに放置しておくのはおすすめできません。また、古い建物は、台風や大雨によって窓ガラスが割れたり漏水が起こったりといった懸念もあります。売却すればこれらの懸念もなくなるでしょう。
日常的な手入れの手間が不要になる
思い入れから実家を売らないとしても、将来的には事情が変わって実家を売ることになる可能性もあります。そういったときに建物が傷んでいると、売り出せる状態になるまで手入れするのに多額のお金と大きな手間がかかるでしょう。
また、居住地が実家から離れている場合は、手入れをするとしても時間とお金の負担が大きくなります。実家を売却すれば、日常的なコストや将来的な懸念の解消にもつながるでしょう。
まとめ
実家には誰しも思い入れがあるものです。後悔したくないと思って売却をためらう人もいるかもしれません。しかし、空き家になっている場合は特に、いつまでも放置してしまうと金銭的・時間的なリスクが大きくなりがちです。
一方で、損をしないためには、あらかじめ売却額と税金とのバランスを確認してタイミングを図るなど、準備を要します。実家を売却することも考えられる場合は、必要に応じて専門家に相談するのがおすすめです。