農地を所有している人の中には「農地を相続したが活用方法がないので売却したい」「農業を続けるのか農地を売却するのか悩んでいる」という悩みを持った人が多いのではないでしょうか。

農地の売却には、宅地やマンションとは異なる手続きが必要です。農地売却を検討する場合、売却までのステップを理解しておかなければ売却に失敗してしまう可能性があります。

この記事では、農地売却の流れや宅地より売却が難しい理由、高く売却するためのコツを紹介します。農地の売却を検討している人は、この記事で売却の全体像を理解し、高値で売却できるよう売却活動を行ってみましょう。

農地を売却する際の流れ

農地の売却は、購入後に買い手がどのように活用するのかによって2つのパターンに分かれます。

  • 農地で農業を続ける前提で売却する

  • 農地を農業以外の用途で使用する目的で売却する

上記の2パターンは、農業委員会に申請する内容が違いますが、売却の流れは大きく変わりません。農業委員会とは、各市町村にある農地に関する事務を行う行政機関のことです。農地を売却する流れは主に次の4ステップです。

  1. 不動産会社に売却を依頼する

  2. 不動産売買契約を締結する

  3. 農業委員会の許可申請を行う

  4. 許可が下りれば引き渡しと残代金の精算を行う

ここでは、農地を売却する流れを詳しく解説します。

1.不動産会社に売却を依頼する

農地を売却する1つ目のステップは、不動産会社に売却を依頼することです。不動産会社に依頼せずに売却活動を行うと、広告活動が十分にできなかったり売買契約の際にトラブルになったりするケースがあります。

依頼する不動産会社を選ぶ方法には、以下の2つの方法があります。

  • 各不動産会社に連絡をして査定依頼をかける

  • 不動産一括査定を利用して査定を依頼する

不動産会社を選定する上で重要な点は、農地売却の経験が豊富な会社に依頼することです。通常の宅地とは異なり、農地は農業委員会への申請が必要なため、農地売却に慣れていない不動産会社ではスムーズに売却できない可能性があるのです。

そのため、できるだけ多くの不動産会社に声をかけ農地売却の実績を聞いた上で、不動産会社を選びましょう。

2.不動産売買契約を締結する

不動産会社の広告活動により農地の買い手が決まれば、農業委員会の許可の前に不動産売買契約を締結します。先に不動産売買契約を締結する理由は、契約成立が不透明なまま手続きを進めるとトラブルのもとになってしまうことや、契約者不明のままだと農業委員会の許可が下りない可能性があるためです。

また、農地売却の売買契約締結で重要な点は「農業委員会の許可が下りなければ契約が白紙になる」という特約を盛り込んでおくことです。農業委員会の許可が下りなければ、引き渡すことができなくなるためです。

農地は、宅地の不動産売買契約とは内容が違う点が多くあるため、不明な点があれば不動産会社の担当者に内容を詳しく説明してもらいましょう。

3.農業委員会の許可申請を行う

不動産売買契約が無事締結された後は、農業委員会に許可申請を行います。申請の内容は、購入後の活用方法によって異なります。

  • 農地で農業を続ける前提で売却する場合は第3条許可

  • 農地を農業以外の用途で使用する目的で売却する場合は第5条許可

申請の際は農地の登記簿謄本や公図の写し、位置を示す地図などが必要です。ただし、各農業委員会によって必要書類が異なるため、農業委員会のホームページを確認したり、電話で確認したりして書類の内容をあらかじめ調べておきましょう。

4.許可が下りれば引き渡しと残代金の精算を行う

農業委員会の許可が下りれば、残代金の精算や土地の引き渡し、所有権移転登記を行います。これらの手続きには、権利証や実印、印鑑証明などが必要になるため、当日に書類を忘れて引き渡しができないという事態にならないよう気をつけましょう。

もし農地を売却した際に利益が出た場合には、譲渡所得税の確定申告を行う必要があります。確定申告の時期は、売却をした翌年の2月16日から3月15日までです。

農地の売却が宅地より難しい3つの理由

農地の売却は、宅地(建物の敷地のために使われる土地)より売却が難しいとされています。その理由は主に次の3つです。

  • 農地法による制限があるから

  • 農家の高齢化で買い手が少ないから

  • 農地の地価が下落しているから

農地の売却が難しい理由を解説します。

農地法による制限があるから

農地の売却は「農地法」によって制限があるため、売却が難しいとされています。農地法とは、農地を保護するために適切に利用されることを目的とした法律です。

たとえば、農業を行うために農地を購入したいという人が現れても、個人の農家や農業を行える法人など、農業委員会から許可を受けた農家しか農地を購入できません。また、農地を他の用途に転用する場合は、農地が位置しているエリアなどの基準により許可・不許可が判断されます。

このように、農地は宅地のように自由に売買できないケースが多く、場合によっては農業委員会から許可が下りない可能性があります。農地法の制限が、農地の売却が難しくしている大きな理由だと言えます。

農家の高齢化で買い手が少ないから

農地の売却が難しいとされる2つ目の理由は、農家の高齢化により買い手が少なくなっている現状が挙げられます。農林水産省によると、2020年の農業従事者のうち65歳以上が約70%を占め、49歳以下は約11%という割合でした。

【年齢階層別基幹的農業従事者数】

画像引用:農林水産省「変化する我が国の農業構造」

また、「耕作放棄地」という放棄されて荒れ果てている農地が多いことも、農地の売却が難しい理由の1つです。近年は新しく農業を始める人が少なく、農家を引退すると跡継ぎがいなくなってしまうため、有効活用できない農地が増えているのです。

日本の課題でもある少子高齢化が、農地の売却の難しさにもつながっていることを理解しておかなければいけません。

農地の地価が下落しているから

農地の売却が難しい理由の1つとして、農地の地価が下落しているという点が挙げられます。それは、有効活用されていない農地が増えていることが理由として考えられます。

全国農業会議所が公表した「令和5年田畑売買価格等に関する調査結果」によると、農地価格は平成7年以降29年連続の下落となっています。

画像引用:全国農業会議所「令和5年田畑売買価格等に関する調査結果(要旨)」

また、全国農業会議所によると、農地価格の下落には以下のような要因が考えられています。

  • 農地の買い手が少ないまたは買い控えのため

  • 農業後継者がいないため

  • 米価など農産物価格が低いため

  • 兼業化による労働力不足のため

農地の価格は宅地の数分の1から10分の1以下になることもあり、価格の低下が農地の売却をさらに難しくしている理由と言えます。

また、物件価格が低いと不動産会社が得る仲介手数料も低くなることから、売却に協力してくれる会社が少なくなるケースがあります。

【仲介手数料の上限額】

物件価格

仲介手数料の上限額を求める速算式

400万円超

物件価格✕3%+6万円+消費税

200万円超〜400万円以下

物件価格✕4%+2万円+消費税

200万円以下

物件価格✕5%+消費税

物件価格別の仲介手数料は以下のとおりです。

  • 物件価格3,000万円の場合:105万6,000円

  • 物件価格1,000万円の場合:39万6,000円

  • 物件価格500万円の場合:23万1,000円

このように、安価の農地売却による報酬が低いことも、農地売却を難しくしている一因だと考えられます。

それでも農地を売却するべきなのか

農地法の制限や農地の価格減少により農地の売却が難しい現状ですが、それでも売却をするべき理由があります。

  • 放置すると売却がより困難になる

  • 固定資産税の負担が続く

ここでは、農地の放置が招く危険性について解説します。

放置すると売却がより困難になる

農地を売却するべき理由として、放置すればするほど売却が困難になってしまうことが挙げられます。農地を放置することで、以下のような事態が起きる可能性があります。

  • 雑草が生い茂り害虫が発生することで近隣に迷惑がかかる

  • 草刈りに手間や費用がかかる

  • 長期間放置したあとに農地として復旧するのに時間がかかる

このようなリスクから、放置された農地は買い手の印象を悪くしてしまうことが考えられます。売却を後回しにすると、リスクがどんどん大きくなり売却がより困難になるため、使わない農地やこれから相続される農地がある場合は、できるだけ早く売却することをおすすめします。

固定資産税の負担が続く

農業を行わず放置された農地でも、毎年固定資産税がかかります。このような費用負担も農地を売却するべき理由です。

近年、農家の減少により「耕作放棄地」や「遊休農地」が増えています。こうした背景があり、平成29年の税制改定により耕作放棄地と判断された農地は、固定資産税が通常の農地よりも約1.8倍かかることが定められました。

とくに農業を引退した人にとって、固定資産税の納付は大きな負担となります。農地を売却できなくなるまで放置する前に、早めに売却を検討することが重要です。

農地を少しでも高く売却するコツ3選

農地を少しでも高く売却するコツは、次の3つが挙げられます。

  • 不動産一括査定を利用する

  • 余裕を持ったスケジュールを組む

  • きれいな状態を保つ

ここで紹介するコツを理解し、農地を少しでも高値で売却できるようチャレンジしてみましょう。

不動産一括査定を利用する

農地の売却を依頼する場合、農地売却の経験と実績が豊富な不動産会社に依頼することをおすすめします。不動産会社を選定する際におすすめのサービスは、不動産一括査定です。不動産一括査定とは、一度の申し込みで複数の不動産会社に査定依頼をかけられるサービスです。

不動産一括査定を申し込めば、手間なく複数の不動産会社に査定を依頼できます。そのため、コンタクトを取った際に農地売却の実績を聞くことで、最適な不動産会社が見つかるでしょう。また、農地は宅地に比べて成約事例が少ないため、1社だけの査定ではその金額が高いのか安いのかが判断しにくい特徴があります。複数の査定結果を比較して、適正な価格を算出しましょう。

余裕を持ったスケジュールを組む

農地を少しでも高く売却するための2つ目のコツは、余裕を持ったスケジュールで売却を進めることです。農地の売却は「買い手が少ない」「農業委員会の許可に時間がかかる」などの理由で時間がかかることがほとんどで、トータル1年以上かかるケースもあります。

そのため農地の場合は、少なくとも1年以上の余裕を持って売却スケジュールを組むことをおすすめします。もし早い段階で買い手が見つかったとしても、農業委員会の手続きが長期化してスケジュールがずれてしまう可能性があるのです。

きれいな状態を保つ

高値で売却する最後のポイントは、農地をきれいな状態で保つことです。放置された農地は雑草やゴミなどで見た目が悪くなることが多く、そのままだと買い手からの印象が悪くなってしまいます。農地をきれいに保つためには、次の対策を行いましょう。

  • こまめに草刈りを行う

  • 不法投棄があった場合は早めに処分する

  • 柵や塀で囲うなど境界をはっきりさせる

  • かかしや電気柵を活用し害獣対策を行う

一度農地が荒れてしまうと、復旧までにそれ以上の時間と費用がかかってしまいます。農地を少しでも高く売却するためにも、農地の管理を怠らないようにしましょう。

まとめ

この記事では、農地を売却する流れや放置することで発生するリスクについて解説しました。農地は農地法の制限や農家の高齢化により、年々売却が難しくなっています。しかし、農地を活用しないまま放置すると、売却までにより時間がかかったり、固定資産税の負担が大きくなったりするなどのリスクが発生します。

農地を売却する上で重要な点は、農地売却の経験と実績が豊富な不動産会社に依頼することです。不動産会社の選定には、不動産一括査定サービスの利用がおすすめです。この記事で紹介した農地売却のコツを参考に、農地売却が得意な不動産会社でスムーズな農地売却を実現しましょう。