一般の買主ではなく不動産業者に物件を売る不動産買取は、とにかく早く不動産を売りたい時などにおすすめの売却方法です。しかし、不動産業者にだまされてしまうのではないかなど、不安を感じる人もいるのではないでしょうか。悪質な不動産業者を避けるためには、あらかじめ複数の業者に査定依頼するなどの対策が必要です。

この記事では、不動産買取と仲介による売却の違いをはじめとして、買取にまつわるトラブルの例や事前にできる対策などについて解説します。

この記事の目次

不動産買取の概要:仲介による売却との違いは?

買取による売却と仲介による売却は具体的に何が違うのか、自分にはどちらが合っているのかわからないという人もいるのではないでしょうか。最初に、買取のビジネスモデルや買取と仲介との違いなどについて解説します。

不動産買取のビジネスモデル

不動産買取と仲介とで最も異なるポイントは、売主が不動産を売却する相手です。不動産買取の場合は必ず不動産業者に売却することになります。その一方で、仲介の売却相手は不動産業者とは異なる個人です。

買取によって不動産を取得した業者は、買取った不動産を修繕・改良した後に、取得費用に経費や利益等を上乗せして別の個人などへ転売します。一方で、仲介の場合は不動産業者が売主と買主との間を取り持つということになり、売主は直接買主へ売却することになります。不動産買取は不動産業者にとって「物件仕入れ」のような側面をもっていることが特徴的です。

不動産が売れるまでに必要な期間の違い

仲介による売却では不動産を売り出してから売却が完了するまでに4ヶ月~6ヶ月程度の時間がかかります。「買主を探す期間」が必要なので時間を要するのが特徴的です。その一方で、不動産買取の場合は売却完了までの期間が1週間~1ヶ月程度です。

不動産買取の場合は買主を探す必要が無いので、仲介と比較すると売却完了までの期間が短くなります。例えば相続税の納税期限や転勤が迫っているなど、とにかく早く不動産を売らなければいけない場合は、買取サービスを利用するのがおすすめです。

買取と仲介とでは売却価格が違う

買取と仲介の比較において、もう1つの大きな違いは売却価格です。買取価格の相場は仲介による取引価格の6割から8割となります。

仲介の場合は買主との交渉などがなければ市場価格通りで売却可能です。その一方で、買取は不動産業者にとって「物件仕入れ」のような側面を持っているため、不動産業者の経費や後の利益などを考慮した価格が提示されます。

売主が支払う費用の違い

仲介で不動産を売却すると、売主は買主を見つけてきた不動産業者に対して仲介手数料を支払うことになります。しかし、買取の場合は「買主を見つける」という仲介行為が発生しないため、仲介手数料を支払う必要はありません。

ただし、買取であっても支払うべき費用は存在します。仲介手数料と比較すれば少額ですが、売買契約書に貼付する印紙代や抵当権抹消などに関する手数料は発生するので要注意です。なお、仲介の場合に支払う仲介手数料を考慮すれば、諸経費の少なさは買取のメリットと言えます。

仲介では売りにくい不動産も買取でなら売れることがある

例えば、駅から極端に遠いなど立地が良くない、築年数が50年以上などの特徴を持つ物件は買主から選ばれにくいため、仲介で買主を見つけるのが難しいものです。しかし、買取の場合は不動産業者が物件に修繕・改良などを加える前提で見られるため、仲介では売りにくい物件でも売れることがあります。

なお、「買取保証」というサービスを展開している不動産業者であれば、一定期間仲介として売り出した後、売れなかった場合は不動産業者がその不動産を買取ってくれます。時間的に余裕はあるけど最終的に必ず売りたいという場合は、買取保証を利用するのがおすすめです。

不動産買取でありがちなトラブル

買取と言いつつ本当は何か費用を請求される費用があるのではないか、悪質な不動産業者を見分ける方法はないのかと疑問を持つ人もいるのではないでしょうか。ここからは、不動産買取でよくあるトラブルの例について紹介していきます。

買取価格が安すぎる

買取による価格は仲介による売却の6割~8割ですが、例えば4割以下などの場合は安く買いたたかれている可能性が出てきます。仲介による価格は、売ろうとしている不動産と似たような立地・規模の物件をインターネットで検索するなどすれば調べることが可能です。

不動産買取を利用する場合であっても、よほど急いで売らなければいけない事情がない限り、極端に安い価格で売却するのは避ける方が良いでしょう。

支払わなくてもいい費用を請求される

買取で不動産を売却する場合は、事前に売主が支払う費用は発生しません。また、事前の査定は無料です。しかし、悪質な不動産業者に当たると、例えば着手金など何らかの理由をつけて事前に費用を請求されることがあります。

なお、不動産業者が買取に対応している別の不動産業者を連れてくるということも起こり得ます。この場合は仲介になってしまうので仲介手数料の支払が必要です。不動産買取を依頼する時にはどこへ売却することになるのかを把握し、仲介になるようであれば取引を断るようにしましょう。

不動産を引き渡した後に費用を請求される

仲介による不動産の売買では、「契約不適合責任」という責任を売主が負うことになります。契約不適合責任とは、契約締結前の段階で売主が告知していなかった物件の不具合が引渡し後に見つかった場合、売主が費用を負担する可能性があるというものです。

しかし、買取の場合は「不動産のプロが消費者から不動産を買取る」ということになるので、契約不適合責任を免責にできます。ただし、免責にできるというだけで必ず免責されるというわけではありません。

悪質な不動産業者は契約不適合責任を免責せず売買契約を締結し、引渡し後に不具合が見つかった場合は売主に費用負担を迫ってくることがあります。

事前の査定額と実際の買取価格が違う

不動産買取の買取額は不動産会社が事前に査定をすることによって提示されます。基本的に査定価格=買取価格です。しかし、悪質な不動産業者に当たると、何らかの理由をつけて後出しで買取価格を下げてくることがあります。

査定価格を提示された後に不動産業者から買取価格を下げる話が出た場合は、その不動産業者とは取引をしないのが賢明です。不動産業者に関して他の選択肢も取れるよう、同時並行で複数の不動産業者に接触するのが良いでしょう。

営業マンとのトラブル

不動産業者の側から見ると不動産買取は物件の仕入れに当たるため、買取価格を少しでも安くしたいのが本音です。また、不動産業界には未だに古い体質を持つ業者も多くなっています。このため、強引な営業マンに当たる可能性もあります。

営業マンの質は不動産取引の満足度に直結するため、強引で合わない営業マンに当たった場合は、別業者との取引を検討するのが良いでしょう。

不動産買取でトラブルを回避するための事前準備

不動産買取に関するトラブルを回避するためには、査定を依頼する前や売買契約を締結する前などの段階で不動産業者について調査しておくなど、事前の準備が必要です。どんな準備をすればよいのか解説していきます。

不動産会社と接触する前に売却価格の相場を調査する

買取価格に関するトラブルを回避するために有効な対策は、仲介で売るとしたらいくらで売れるのか、売却価格の相場を売主自らが調べておくことです。買取による価格は仲介による価格の6割~8割なので、仲介による価格の相場を把握しておけば、提示された価格が安すぎないかを売主側で判断できます。

仲介による価格相場の調べ方の1つは、SUUMOやLIFULL HOME’Sなどのポータルサイトで同じエリア、似たような物件を探すというものです。また、国土交通省が運営する「土地総合情報システム」というサイトには、2017年以降に実施された不動産取引の情報が掲載されています。なるべく近い時期の取引事例が見つかれば、価格相場を把握可能です。

複数の不動産業者に査定を依頼する

営業マンにまつわるトラブルなどが起きたときに特に有効な対策は、あらかじめ複数の不動産業者と接触しておくことです。不動産業者に関して最初から複数の選択肢を持っておけば、最初に接触した不動産業者が悪質な業者であったとしてもすぐに業者を切り替えられます。

査定を依頼した不動産業者について調査する

不動産買取に関して、本当に不動産業者がお金を払ってくれるのかという不安を持つ人もいるのではないでしょうか。実際のところ、取引に際して不動産業者が多額のお金を支払うことになるため、不動産買取は資金的に余裕のある不動産業者にしかできないビジネスです。

こうした背景から、仲介には対応しているけど買取には対応できないという不動産業者は多数存在します。買取による売却を前提とすると比較できる不動産業者は少ないため、少数の候補から良質な不動産業者を見極めることが必要です。

このため、査定を依頼した不動産業者について、不動産買取の事業を始めてから何年経つのか、資本金や会社規模はどの程度かなどのポイントについて調査することがリスクヘッジにつながります。不動産買取の事業を始めてからの期間が長く、会社規模が大きければ安全に取引できるでしょう。

査定結果を受け取ったら価格の根拠を確認する

悪質な不動産業者や営業マンを避けるためには、査定結果を受け取った時に査定価格の根拠を確認するのも有効です。優秀な業者や営業マンに当たった場合は、過去の取引事例や仲介による取引価格の相場など、データなどに基づいた根拠が提示されます。一方で悪質な不動産業者に当たった場合は、根拠は曖昧にしたまま強引に押し切ろうとしてくることがあります。

隣地との境界確定など不動産に関する不備を解消しておく

マンションの取引では発生しないことですが、特に古い戸建や土地については隣地との境界が不明確なまま放置されているケースも少なくありません。境界確定とは、物件現地で測量をしたうえで境界線について隣地の所有者と合意することを指しています。

買取はそもそも仲介で売りにくい不動産を売却するための手段として用いられるため、境界が確定されていない物件でも、業者によっては買取に対応しています。しかし、境界が不明確な不動産は買取価格が安くなるほか、売却した後のトラブルにつながる可能性もあるでしょう。

境界のほか設備の不具合なども同様です。境界の確定も設備の修繕も費用がかかりますが、不動産に関する不備はなるべく解消しておくことがリスクヘッジにつながります。

事前打ち合わせの内容を記録しておく

不動産買取の過程では、査定を受けてすぐに買取価格が決まることもありますが、不動産業者と複数回の打合せを重ねることもめずらしくありません。不動産業者は打合せ内容の記録に関する義務を負わないため、売主側が自衛するためには打合せ内容の記録をしておくことが有効です。事前の打合せ内容と売買契約書の内容が一致していれば特に問題ありません。

また、前項で解説した契約不適合責任の有無についても不動産業者と締結する売買契約書に記載されます。そのほか買取価格やお金の入金時期も契約書に記載されるため、査定価格および打合せ内容と同じになっているか、必ず署名捺印する前に確認しておきましょう。

悪質な不動産業者を避ける方法

不動産業者を見極める上で、具体的にどんなポイントを見れば良いのか解説していきます。

不動産買取の実績を確認する

不動産業者に買取の実績があればあるほど、その不動産業者との取引は安全となる確率が高くなります。実績が多いということは、それだけその業者に資金力があるという証拠にもなるからです。実績豊富な不動産業者と取引するのであれば、買取金が支払われないなどのトラブルを避けられるでしょう。

なお、不動産業者にはそれぞれ得意分野と不得意分野があります。例えばマンションを売却しようとしているのに、戸建の買取実績が豊富な不動産業者に依頼してしまうと、相場とズレた査定価格を提示されることもあるので要注意です。事前に不動産業者の買取実績を確認することは、このようなミスマッチを防止するための対策にもなります。

会社概要を細かく確認する

買取を依頼する不動産業者の会社規模が大きければ取引の安全性は高まります。査定を受ける段階で会社概要を細かく確認しておけば、安全性の確保に役立つでしょう。確認するポイントは会社設立時期・株式上場の有無・資本金・拠点数・従業員数などです。

そのほか、国土交通省が運営している「ネガティブ情報等検索サイト」を利用すれば、行政処分を受けたことがある不動産会社を検索できます。気になる場合は事前にこちらも確認してみると良いでしょう。

営業マンの対応を比較する

不動産業者のホームページを見るだけでは掴めないことも、営業マンの対応や説明などから予測することができます。問合せに対するレスポンスの早さや質、査定内容や取引の過程に関する説明、やり取りを重ねた時の印象などについて複数社を比較するだけでも、不動産業者の絞り込みには役立つでしょう。

必ずしも高い査定価格を提示してくる不動産業者が優秀とは限りません。仕入れ物件を確保するために適当な説明で強引な取引を進めようとしてくる不動産業者もいるので、複数の業者を比較することはとても重要です。

不動産買取のトラブルに対応している相談先

どんなに事前の準備をしていても、トラブルに見舞われてしまうことはあるでしょう。ここからは、実際にトラブルに遭ってしまったときの相談先について紹介していきます。

各都道府県に設置されている宅地建物取引業者の主管部署

不動産の売買に携わる不動産業者は宅地建物取引業者として免許を取得しており、行政上の主管は各都道府県です。都道府県を跨いで営業所などの拠点を設置している場合は国土交通省が主管しています。

都道府県の担当部署へ相談すれば、トラブルの内容に応じてアドバイスをもらえるでしょう。または適切な相談先を案内してくれる可能性があります。

不動産適正取引推進機構

不動産適正取引推進機構は「不動産取引に関する紛争の未然防止を図るとともに、適正かつ迅速な処理を推進する」という目的のもと設立された団体です。不動産取引に関するトラブルについて電話相談に応じているほか、主管行政庁で解決できなかったものについては、関係者の同意のもと弁護士を含む3名の委員が調整を行います。

全国宅地建物取引業協会連合会

宅地建物取引業者を主管する都道府県の担当部署とは別にある宅地建物取引業者の団体が、全国宅地建物取引業協会連合会です。都道府県ごとに「不動産無料相談所」が設置されており、連合会の会員を相手とする苦情・トラブルの相談を受け付けています。

弁護士や司法書士

不動産業者とのトラブルが法的なものに発展した場合は、弁護士に相談するのも有効です。自治体によっては定期的に弁護士の無料相談会を開催していることもあります。また、所有権登記などに関するトラブルの場合は司法書士に相談するのも有効です。

消費者生活相談窓口や消費者ホットライン

消費者生活相談窓口や消費者ホットラインは、不動産関係のトラブルに特化した相談窓口ではありません。しかし、不動産関係のトラブルについても多くの相談が寄せられており、基本的に無料で相談できます。

まとめ

不動産買取は仲介による売却と比較すると短期間で不動産を現金化できます。早く売りたい事情がある時や仲介では売りにくい不動産を売りたい場合などは、不動産買取を利用するのがおすすめです。

一方で、不動産買取を依頼する時には、本来不要な手数料を要求されたり不当に安い金額を提示されたりなどのトラブルに遭う可能性もあります。トラブルを回避するためには、事前に不動産価格の市場相場を調べておく、あらかじめ複数の不動産業者に接触するなどの対策が有効です。

また、実際にトラブルに遭ってしまった場合は、各都道府県の宅地建物取引業者主管部署などに相談すると良いでしょう。