「住宅ローンを完済したので抵当権抹消登記を自分でやりたいけど、やり方がわからない...」

と、お悩みではないでしょうか。

この記事では、抵当権抹消登記を自分で行う手順と、3つの注意すべき点について解説します。3STEPの行程に沿って手続きを進めれば、初めての人でも抵当権を自分で抹消できるようになります。

抵当権抹消登記を自分でやって、司法書士に依頼する費用を節約したい人は、ぜひ参考にしてください。

【おさらい】抵当権を抹消するとはどういうことか

抵当権を抹消するとはどういうことなのか、前提として理解しておくべきことをわかりやすく解説します。項目を見て、すでに知っていると思った人は次項から読み進めていただいても構いません。

  • 抵当権とは

  • 根抵当権との違い

  • 質権との違い

  • 設定した抵当権を登記から抹消する意味

抵当権とは

抵当権とは、金融機関が設定する権利のことで、金融機関から住宅ローンなどで借入をする際に、お金を借りる債務者が所有する土地や建物に設定されます。

お金を借りた債務者が何らかの理由で返済ができなくなった場合に、金融機関がその不動産を差し押さえるために設定されます。

差し押さえられた不動産は競売にかけられるため、抵当権が実行されたとき、債務者はその不動産を手放さなくてはなりません。

根抵当権との違い

抵当権の設定は、一度の貸付と借入ごとに行う必要があるため、複数回の貸付・借入を行いたいときには適していません。

逆に根抵当権の設定は、貸付・借入を複数回行う契約の場合に適しています。根抵当権の場合、担保となる目的物から貸付の限度額を定めて、その範囲内で貸付と借入を行います。

そのため、根抵当権は、住宅ローンなどの一般的なローンで設定される機会はあまりないでしょう。会社や個人事業主などが事業資金の融資を受ける際に設定されることがあります。

また、その他の違いとしては、抵当権は連帯保証人が付けられるのに対し、根抵当権は返済すべき元本が定まっていないため連帯保証人が付けられないという点も挙げられます。

質権との違い

質権とは、債権者がお金を借りる債務者または第三者から担保として物を受取り、債務不履行時には、その受取った担保を処分して弁済を受けられる権利です。

つまり、抵当権との大きな違いは、質権の場合は、債務者は完済するまで担保として預けたものを利用できない点です。また、抵当権は不動産・地上権・永小作権のみに設定できるのに対し、質権は動産・不動産・権利など幅広いものに設定できます。

設定した抵当権を登記から抹消する意味

金融機関は担保となる不動産に対し抵当権を設定した際、必ず登記を行います。なぜなら、登記をしていなければその権利は主張できないからです。民法には次の条文が明記してあります。

「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。(第百七十七条 不動産に関する物権の変動の対抗要件)」

その登記を抹消するための手続きが抵当権抹消登記です。手続きが完了すると、不動産の全部事項証明書に記載されていた抵当権の欄に下線が入り、権利がすでに抹消されていることが示されます。

完済したとしても、抵当権にこの下線が入っていないと、第三者からまだ抵当権が設定されていると判断されてもおかしくありません。

抵当権抹消登記をしないとどうなるのか

抵当権抹消登記をしないとどのような影響が出てくるのか、次の項目に沿ってそれぞれ解説していきます。

  • 不動産を売却したあと買主にリスクが残る

  • 新たな融資を受けたいときに困る

  • 相続が発生したときに相続人が困る

  • 最悪の場合は債権者がわからなくなる

不動産を売却したあと買主にリスクが残る

もし、不動産の引渡しが終わった後も抵当権抹消登記が行われていない場合、所有権が次の買主に移ったとしても、元の所有権(債務者)が返済を怠った場合、担保となっている不動産は競売にかけられることとなります。

そうなってしまっては、新しい所有者は購入した不動産を手放さなくてはなりません。そのため、通常は、売主が物件の引渡しまで、もしくはその日に買主から送金される購入資金で借入を返済し抵当権抹消登記を行います。

新たな融資を受けたいときに困る

住宅ローンで購入した不動産を担保に入れて新たな融資を受けたい場合には、元の抵当権は抹消しておいた方が良いでしょう。なぜなら、抵当権の優劣は登記した順番で決定するため、融資額などに影響が出るからです。

もし、担保となっている不動産が競売にかけられた場合、二番手として抵当権を設定している金融機関は、一番手の金融機関が資金を回収した後、余剰資金が出たときにしか弁済を受けられません。そのため、金融機関は二番手や三番手で抵当権を設定する場合には大きなリスクを背負うことになります。

そのような理由から、元の借入を完済していても、抵当権が抹消されていない状態で融資を受ける場合には、融資額の限度が大幅に下がる可能性が高くなります。

相続が発生したときに相続人が困る

抵当権は完済すれば自動的に消えるものではなく、抹消登記を行わなくてはなりません。もし、親が住宅ローンを完済しているにもかかわらず、抵当権抹消登記を行っていない場合、相続を受けた相続人が行う必要があります。

抵当権の抹消登記は司法書士に依頼して行うことが多く、それを依頼するための費用や手間がかかります。

最悪の場合は債権者がわからなくなる

完済を終えてから長く、抵当権の抹消登記を行っていない場合、いざ抹消登記をしようしたときに、債権者がすでに亡くなっていたり、倒産していたりすることがあります。

その場合、債権者が個人の場合には、権利の継承者である相続人を探すところから始まります。金融機関などの法人が倒産している場合には、閉鎖登記簿などの調査、登記情報などが取得できる場合は、登記されている役員の住民票などを調べます。

このような調査で債権者がわかればまだ良いのですが、最悪の場合、それでもわからないことがあります。そのようなケースでは、法務局へ資金を供託することで抵当権を抹消する方法もありますが、そのための供託金やそれまでの手間を考慮すると、抵当権の抹消登記は完済時に速やかに行っておく方が良いといえるでしょう。

【3STEP】抵当権抹消登記を自分で行うための手順

抵当権抹消登記を自分で行うための手順を順番に解説します。

  • ①必要書類を準備する

  • ②管轄の法務局を調べる

  • ③法務局へ登記の抹消を申請する

①必要書類を準備する

まずは必要書類を一式用意しましょう。法務局のホームページで取得する登記申請書以外は、住宅ローンを完済したときに、債権者である金融機関や保証会社から債務者へ郵送されます。

抵当権抹消登記申請書

抵当権抹消登記申請書をダウンロードしてください(法務局ホームページ)。ダウンロードした抵当権抹消登記に必要事項を記入します。自分で埋める箇所が多いため、法務局の登記相談窓口で確認しながら記入することをおすすめします。

登記済証または登記識別情報

抵当権が設定された際に、金融機関などの債権者へ登記済証または登記識別情報が発行されます。完済時に債務者へ向けて郵送されるため、失くさず大切に保管しておきましょう。

登記原因証明情報(解除証書・弁済証書など)

登記原因証明情報(解除証書・弁済証書など)は、抵当権を抹消する原因が記載された書類のことを指します。金融機関により発行される書類の名称が異なるため、わからない場合は問い合わせましょう。

また、この書面も自分で埋める箇所が多いため、法務局の登記相談窓口で確認しながら記入することをおすすめします。

抵当権抹消の委任状

抵当権抹消登記は、債権者と債務者が共同で行うべき登記とされています。そのため、金融機関は委任状を併せて郵送してくることが多く、申請書類の一つとして必要となります。

委任状にも日付などの空欄があるため、登記識別情報を法務局の相談窓口で記載する際に併せて確認を行ってください。

資格証明書(代表者事項証明書など)

抵当権者が法人の場合、代表者事項証明書や全部事項証明書などの資格証明書が必要になります。発行後3カ月以内の資格証明書が必要なため、金融機関などから書類が届いた後は速やかに抹消登記を行うようにしましょう。

補足として、抵当権抹消登記申請書に会社法人など番号(数字12桁)を記載した場合は、資格証明書の添付は不要となります。

②管轄の法務局を調べる

抵当権抹消登記は、担保となっている不動産の所在地を管轄する法務局に申請します。そのため、相談も管轄する法務局の窓口にいくのが一般的です。

法務局の相談窓口は予約制となっており、相談時間には20分の制約があるため、事前に聞きたいことを整理した状態で相談にいくようにした方が良いでしょう。

③法務局へ登記の抹消を申請する

申請書、必要書類をとりまとめ法務局へ提出します。登録免許税は、このときに法務局内にある印紙売場で収入印紙を購入し添付すると良いでしょう。

申請後「補正=不備」があれば法務局から連絡が入るため、直接、法務局へ出向いて修正を行います。補正の連絡が来なければ、申請時に伝えられた登記完了予定日に完了した際に受け取れる書類を受領しに行きます。

抵当権抹消登記を自分で行う際に注意すべき3つのこと

抵当権抹消登記を自分で行う際に注意すべきことを解説します。

  • ①住所や氏名の登記変更をしないといけない場合もある

  • ②取得する必要書類には期限がある

  • ③相続の場合は先に相続人への所有権移転登記(相続登記)が必要

①住所や氏名の登記変更をしないといけない場合もある

結婚や引越しなどで氏名、住所が変わっている場合には、抵当権抹消登記を行う際にそれらの変更登記も行わなくてはなりません。

住所が変わっている場合は、引越しの経緯がわかる住民票と住所変更登記申請書が必要になります。住所変更登記申請書は、法務局のホームページでダウンロードできます。

氏名が変わっている場合は、戸籍謄本と本籍が記載された住民票が必要になり、住所変更登記とは必要書類が異なるため注意しましょう。

②取得する必要書類には期限がある

住宅ローンを完済し抵当権抹消登記を行う際、金融機関などの債権者から送られてくる必要書類の中には期限付のものもあります。

たとえば、資格証明書(代表者事項証明書など)は3カ月以内のものでなければ効力がありません。期限切れとなってしまうと、再発行のための手続きや余分な費用がかかってしまうため、抵当権抹消登記は期限内に速やかに行うようにしましょう。

③相続の場合は先に相続人への所有権移転登記(相続登記)が必要

亡くなった被相続人の不動産に抵当権が設定されていた場合、相続人がその不動産を相続するためには、相続登記と抵当権抹消登記を申請を行わなくてはなりません。

まず被相続人から相続人への相続登記(所有権移転登記)を行ってから、不動産を取得した相続人が抵当権抹消登記を行います。

【比較】抵当権抹消登記を行う際にかかる費用

抵当権抹消登記を行う際にかかる費用を次の2つに分けて解説します。

  • 抵当権抹消登記を自分で行った場合

  • 抵当権抹消登記を司法書士に依頼した場合

抵当権抹消登記を自分で行った場合

抵当権抹消登記を自分で行った場合には、登録免許税や事前調査にかかる費用、その他交際費などがかかります。

登録免許税

不動産の登記申請時には、登録免許税が必要になります。税額は、不動産の数×1,000円なので、土地建物の場合、土地と建物で2,000円かかる計算です。土地が二つ以上ある場合は、その数だけプラス1,000円かかります。

事前調査にかかる費用

抵当権抹消登記申請書などの作成のために土地建物の全部事項証明書(登記簿)を取得しなくてはなりません。インターネットで取得できますが、1通につき約300円かかります。

参考『登記情報提供サービス

その他交通費など

法務局へ出向くまでの交通費や、郵送書類を送る場合は郵送料金などがかかります。

抵当権抹消登記を司法書士に依頼した場合

司法書士に抵当権抹消登記を依頼した場合、15,000~20,000円の報酬費用(代理受領費用含む)が発生します。

【Q&A】抵当権抹消登記に関してよくある質問

抵当権抹消登記に関してよくある3つの質問を紹介し、それぞれ解説します。

  • ①結局、抵当権抹消登記を自分で行うのは簡単?

  • ②抵当権抹消登記の手続きはオンラインで完結できる?

  • ③自分で抵当権抹消登記をできない場合もある?

①結局、抵当権抹消登記を自分で行うのは簡単?

簡単とまではいえないかもしれませんが、本記事で紹介した3STEPに沿って手続きを行えば自分でやることはできます。

しかし、次の買主が決まっているときや、抵当権者が金融機関でないとき、その他に少しでも特殊な事情があるときには司法書士に依頼することをおすすめします。

抵当権抹消登記は担保となる不動産の取引にかかわる重要な手続きであるため、少しでも不安がある場合はより確実性の高い方を選ぶと良いでしょう。

②抵当権抹消登記の手続きはオンラインで完結できる?

抵当権抹消登記はオンラインで行うこともできます。登記・供託オンライン申請システム内の『申請用総合ソフト』を利用します。

しかし、マイナンバーカードが必要になることと、システムを利用できる時間が、月曜日から金曜日まで(国民の祝日・休日、12月29日から1月3日までの年末年始を除く。)の8時30分から21時までと制限があることには注意しましょう。

③自分で抵当権抹消登記をできない場合もある?

次のようなケースでは、抵当権抹消登記を自分で行えない場合があります。

  • 売却資金で住宅ローンを一括返済するとき

  • 古い抵当権を抹消するとき

  • 抵当権者が金融機関ではないとき

それぞれ解説します。

売却資金で住宅ローンを一括返済するとき

不動産を売却し、買主から得た資金で住宅ローンの残債を返済するときには、より確実性の高い取引が求められるため、抵当権抹消登記は司法書士が行うことが一般的です。

もし、何らかの理由で、抵当権抹消登記が未完了となってしまうと、抵当権付きの不動産を買主が取得することとなってしまいます。

また、買主が住宅ローンを利用する場合は、そもそも担保となる不動産に抵当権が付いていないことが条件となるため、抵当権抹消登記が終えていなければ融資を受けられない事態にもなりかねません。

余程の自信がない限りは、買主がいるときは司法書士に抵当権抹消登記を任せましょう。

古い抵当権を抹消するとき

昭和初期以前の抵当権が残っている場合、債権者がすでに亡くなっていたり倒産していたりすることがあります。住民票などから相続人を特定する方法や、債権者を調べてもわからなかった場合は供託といった方法があります。

いずれにせよ、特別な手続きが必要になるため、プロの司法書士に任せるべき取引といえるでしょう。

 

抵当権者が金融機関ではないとき

 

金融機関の場合、住宅ローンを完済したときに申請書以外の必要な書類はまとめて郵送してもらえます。しかし、抵当権を設定した抵当権者が金融機関ではない場合(知人の会社など)は、抵当権抹消登記に必要な書類を自分で抵当権者に依頼をして集めなければなりません。

そのため、抵当権者が金融機関でないときは、自分で抵当権抹消登記を行うハードルが高くなります。専門性のある司法書士に任せる方がスムーズに手続きが進むでしょう。

まとめ

抵当権抹消登記を自分で行う方法について解説しました。次の3STEPの順に行えば自分で抹消登記できます。

  • ①必要書類を準備する

  • ②管轄の法務局を調べる

  • ③法務局へ登記の抹消を申請する

また、併せて注意点も3つ紹介しました。

  • ①住所や氏名の登記変更をしないといけない場合もある

  • ②取得する必要書類には期限がある

  • ③相続の場合は先に相続人への所有権移転登記(相続登記)が必要

注意点を意識しつつ、3STEPに沿ってぜひチャレンジしてみてください。もし、不安な人は始めから司法書士に頼っても問題ないでしょう。

いずれにせよ、住宅ローンを完済した後、そのままの状態になっているのでは、後々、さまざまな困りごとが出てくる可能性があります。抵当権抹消登記は完済した後に速やかに行うように心がけておいてください。