不動産を売却することになるきっかけは転勤・住み替え・相続など様々ですが、売却するのであれば早く済ませたいと思う人も多いのではないでしょうか。また、せっかく売却するのであれば、余計な手数料などはかけたくないものです。
この記事では、不動産を売却する時の流れや必要期間、売主が支払う手数料や手数料発生のタイミングなどについて解説します。
この記事の目次
不動産売却の全体的な流れ
不動産売却の全体的な流れは以下の通りです。
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売却価格に関する相場を事前に調査する
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不動産会社に売却する不動産の査定を依頼する
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不動産会社と媒介契約を締結する
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買主を探すための売却活動を進める
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買主と不動産の売買契約を締結する
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物件の決済と引渡しの手続き
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確定申告
確定申告は毎年時期が決まっているので、1から6までの間に半年前後かかると考えておけば良いでしょう。あくまで目安ですが、1の事前調査から3の媒介契約締結までで半月から1ヶ月、売却活動の開始から売買契約の締結までで約3ヶ月、決済と引渡しに1ヶ月から2ヶ月の時間がかかります。
1.売却価格の相場を調査する
不動産を売却すると決めたら、不動産会社に査定を受けることから始めるのが一般的です。査定とは、目安となる不動産の売却額を、不動産会社に提示してもらうことを指します。
不動産の査定には専門知識や現地調査などが必要です。不動産会社に勤めている人でもない限り、査定額の予測は難しいでしょう。その一方で、何の情報・知識もないままでは、後に不動産会社から提示される査定額が適切なのかどうか判断がつきません。
後で不動産会社から提示される査定額と比較するためには、売却価格の相場を把握しておくことが有効です。
相場価格の把握は早期売却と不動産会社の見極めにつながる
不動産の早期売却を目指すのであれば、相場価格に合わせた価格で売出すことが特に重要なポイントになります。売出価格が相場より高すぎると買手の希望候補から外れてしまい、売却期間が長期化することになります。
また、悪質な不動産会社に当たると、後に解説する媒介契約欲しさに相場より高い価格で査定してくることも多いものです。あらかじめ相場価格を把握できていれば、査定価格の提示を受けた時点で悪質な不動産会社を排除できます。
相場価格の把握に役立つ2つのサイト
インターネットで以下のサイトから検索すれば、特別な知識などなくても相場価格を把握可能です。
国土交通省が運営する不動産情報ライブラリ
不動産流通機構が運営するレインズマーケットインフォメーショ
どちらのサイトも、プルダウンからエリアや物件の種類(マンションや戸建など)を選ぶだけで、不動産売買の成約事例を検索できます。売却しようとしている不動産と同じような条件で検索すれば、相場価格を把握できるでしょう。
2.不動産会社に査定を依頼する
査定は不動産会社を訪問せずともインターネットで依頼可能です。一括査定サービスを利用すれば、1度に複数の不動産会社とやり取りできます。なお、不動産会社を比較検討するためには、3~4社程度に依頼するのが有効です。
机上査定と現地査定
不動産の査定には机上査定と現地査定の2種類があり、最初は机上査定を受けることが多くなります。なお、一般的に机上査定も現地査定も依頼主の費用負担はありません。
机上査定とは、依頼主が不動産会社に提示した資料や、不動産会社が持っている成約事例などを参考にして査定価格を算出する方法です。一方で、現地査定では不動産会社が査定対象の物件まで足を運び、ポイントとなる箇所を調査したうえで査定価格を算出します。
机上査定によって算出された価格は概算であり、現地査定の方が算出価格の正確性は高くなります。実際には複数の不動産会社に机上査定を依頼し、1社に絞り込んでから現地査定に進むのが一般的です。
机上査定にかかる期間は長くて5日程度です。早ければ査定を依頼した当日に査定結果が出る場合もあります。一方で、現地査定には最低でも7日程度の時間が必要です。なお、住宅の現地査定では水回りなども調査対象になるので、訪問日について不動産会社とスケジュールの調整を要します。
見た目の印象も査定価格を左右するポイントになるので、現地査定のスケジュールが決まったら掃除して物件を極力きれいにしておくと良いでしょう。
物件の査定依頼にあたって用意する書類
机上査定にあたっては、物件の所在地・間取り・築年数などおおよその情報があれば依頼可能です。一方で、現地査定にあたっては、共通の例として以下の書類を用意する必要があります。
・物件のパンフレット(物件概要や間取り図など)
・固定資産税納税通知書
・管理規約と使用細則(マンションの場合)
以下は戸建物件の査定を依頼する時の必要書類です。
・建築確認申請書と建築確認済証
・確認申請図面や竣工図面
・検査済証
・土地の境界図や実測図
・越境の覚書(書類がある場合)
固定資産税納税通知書を除くと、大半の書類は物件購入時に取得しているものです。物件の売却を検討する段階で書類を集めておくと、各種手続きがスムーズになります。
不動産会社を見極めるポイント
査定を受ける目的は、物件の売出価格を決めることと売却活動を委託する不動産会社や営業マンを見極めることです。不動産会社の見極めについては、査定価格の根拠を確認することが役立ちます。根拠が過去の事例やデータなどに基づいていれば、その不動産会社は信用できるでしょう。
一方で、査定価格の根拠が曖昧だったり、連絡に対するレスポンスが遅かったりする場合は、その不動産会社は避ける方が得策です。
そのほか、各不動産会社の得意分野について確認すると早期売却に役立ちます。例えば戸建の売却事例が豊富、マンションの売却プロモーションに長けているなど、不動産会社はそれぞれ得意分野を持っているものです。売出そうとしている物件が不動産会社の得意分野に入っていない場合は、売却期間が長期化する懸念があります。
3.不動産売却に関する媒介契約を不動産会社と締結する
査定の段階で不動産会社を1社に絞ったら、不動産の売却活動を委託する内容の媒介契約を締結することになります。媒介契約には3つの種類があり、種類によって不動産会社の対応が異なります。
専属専任媒介契約 |
専任媒介契約 |
一般媒介契約 |
|
複数の不動産会社と契約 |
できない |
できない |
できる |
売主と買主の直接取引 |
できない |
できる |
できる |
売却活動の報告頻度 |
1週間に1回以上 |
2週間に1回以上 |
法令上の定めなし |
物件情報の登録義務 |
5日以内 |
7日以内 |
法令上の定めなし |
契約期間 |
3ヶ月以内 |
3ヶ月以内 |
定めなし |
物件情報の登録とは、不動産会社専用の物件情報サイトである「レインズ」への登録のことです。不動産会社は買主から不動産購入の相談を受けたときにレインズで物件を検索して案内するため、情報登録が早ければ早いほど、売出す物件が買主の目に留まる機会が増えることになります。
なお、媒介契約を締結した時点では売主に手数料支払いの義務は発生しません。どの媒介契約を締結したとしても、手数料を支払うタイミングは買主が見つかった後になります。
4.買主を探すための売却活動がスタート
売却活動の詳細は不動産会社が担うことになりますが、準備段階では売主として積極的に関わるのがおすすめです。なお、古い物件など難易度の高い物件を売ろうとしている場合やとにかく早く売りたい場合などは、インスペクションという物件の検査などをして、建物や設備の安全性をアピールすることも有効です。
売却活動において売主が関わるポイント
数ある不動産の中から買主に選んでもらうためには、物件のアピールポイントを打ち出す必要があります。アピールポイントが明確化されれば不動産会社が広告を打ち出しやすくなり、買主が見つかる確率も上がるでしょう。
基本的には立地や物件特性などを鑑みて不動産会社からアピールポイントの提案があります。しかし、不動産には「全く同じもの」は2つとなく、持主にしかわからないような特性があることも少なくありません。
もう1点、あらかじめ不動産会社と話し合った方が良いポイントは、売却に関する理由を決めておくことです。売却活動をしていると、買主の候補者から不動産会社に対して売却の理由を聞かれることがあります。内容によっては買主から「売主は売り急いでいる」と判断されて値段交渉に持ち込まれることも少なくありません。
嘘をつくのはよくありませんが、理由を聞かれたときにはどう答えるのか、あらかじめ営業マンとの間で決めておくことも必要です。
売却活動の具体的な内容
販売戦略が固まると、不動産会社が広告を掲出するなどして販売活動を開始します。主な広告の方法は、インターネットの不動産情報サイトへ物件情報を掲載する、不動産会社が抱える見込み客へ物件の提案をする、周辺エリアでチラシをポスティングするなどです。
広告を見るなどして物件に興味を持った見込み客が見つかった場合は、直接物件に案内して中を見てもらう「内覧」を行うこともあります。また、内覧と似たような販売活動としては、物件の周辺へ看板を掲出して興味を持った通行人を物件内へ案内する「オープンハウス」という手法が特徴的です。
内覧やオープンハウスの際には物件内部のきれいさなどが印象に直結するため、売却活動を始めるにあたっては掃除や換気をしておきましょう。そのほか、スリッパを複数用意するなどしておくのもおすすめです。
5.見つけた買主と不動産の売買契約を締結する
販売活動を通じて買主が見つかったら、売主と買主との間で不動産の売買契約を締結します。まず不動産会社から買主に対して重要事項説明が行われ、説明が完了したら売買契約書に署名捺印へと進みます。
なお、売買契約書は事前に案文が不動産会社から提示されるため、内容に問題が無いか事前に確認しておくのがおすすめです。特に確認しておくべきポイントは、買主側からのキャンセル条項などです。
売主と買主の双方が売買契約書に署名・捺印すると、買主による手付金の支払が行われます。なお、手付金は買主から不動産会社の銀行口座に対して送金されます。手付金は仲介手数料の半額を差し引いたうえで不動産会社から売主へ送金されるのが一般的です。
仲介手数料は成約価格によって変わることがあるものの、大半の場合は成約価格の3%と考えておけば問題ないでしょう。
6.物件の決済と買主への引渡しを行う
売買契約の締結が完了したら、あらかじめ買主との間で決めたスケジュールに基づいて残金の決済と鍵の引渡しに移ります。決済・引渡しの手続きは司法書士や金融機関の担当者などが一堂に会して行われます。具体的な流れは以下の通りです。
1.引渡し関係書類の確認
2.買主側のローン実行(買主がローンを利用する場合のみ)
3.手付金を差し引いた残金の受け取り
4.支払済の金額を除いた仲介手数料の支払い
5.抵当権の抹消(ローンの残債がある物件を売却する場合のみ)
6.鍵と書類の引渡し
書類確認やローン実行等にそれほど時間はかかりません。上記1~6の行程を全部1日で済ませるのが一般的です。また、引渡し関係書類は査定の時に不動産会社へ渡すものと同じです。
物件引渡し時に売主が支払う費用
物件の引渡しでは買主だけがお金を払うのではなく、売主も各種手数料等を支払うことになります。売主が支払うのは主に仲介手数料の残額と司法書士費用です。
なお、司法書士費用が発生するのは、ローンの残債がある物件を売却する場合に限ります。司法書士は物件に関する所有権移転の手続きもしますが、所有権移転手続きに関する手数料は買主側の負担となるのが一般的です。
そのほか、金融機関によってはローンの残債を一括返済するにあたって手数料がかかることもあるので、事前に確認しておくと良いでしょう。
7.確定申告を行う
不動産を売却して得たお金は税務上「譲渡所得」として扱われます。このため、不動産を売却したら翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告を行う必要があります。
確定申告の前に準備する書類
不動産の売却に関する確定申告をする時は以下の書類が必要です。平日に役所へ行かないと取得できないものもあるので、余裕をもって準備すると良いでしょう。
・住民票
・売却した不動産の登記事項証明書
・源泉徴収票
・売買契約書のコピー
住民票は区役所など、登記事項証明書は法務局でそれぞれ取得します。源泉徴収票の取得については会社の人事部などへの依頼が必要です。
譲渡所得の計算式
譲渡所得は以下の計算式によって計算します。
売却価格ー(物件購入時の購入価格+売却時の諸費用)ー特別控除額(適用される場合)=譲渡所得
売却価格にそのまま税率が適用されるわけではありません。課税対象額の計算や確定申告のやり方などに不安があれば税理士に相談するのも有効です。ただし、税理士に手続きを依頼すると、依頼内容に応じて費用がかかるので要注意です。
長期譲渡所得と短期譲渡所得
土地や建物などを売却すると前項の計算式で計算した譲渡所得に課税されますが、売却した物件の所有期間によって税率が変化します。
物件を購入した翌年の1月1日から数えて5年以上が経過している場合は「長期譲渡所得」となり、税率が20%になります。一方で、5年経過を待たずに売却すると「短期譲渡所得」として税率が39%になるので、税金を抑えるためには、なるべく長期譲渡所得が適用されるタイミングで売却するのがおすすめです。
マイホーム売却時の特例
マイホームを売却した場合は、譲渡所得が最大3,000万円まで控除される特別控除制度があります。また、所有期間が10年を超えているマイホームの場合は、3,000万円の控除に加えて譲渡所得金額に加えた税率の軽減を適用可能です。
そのほか、マイホーム売却時に譲渡損失が発生した場合の特例もあります。なお、各特例は2024年5月時点の情報なので、都度国税庁のホームページなどを見て確認することが必要です。
まとめ
不動産の売却には多くのステップがありますが、最も重要なポイントは不動産会社と営業マンの見極めです。売主側がどんなに入念に準備をしていても、営業マンが動かないと売却活動は進みません。このため、売主としては査定の段階で慎重に不動産会社などを比較することが必要です。
また、媒介契約を締結した後も営業マンに任せきりにするのではなく、適度にコミュニケーションを取るようにすると良いでしょう。