離婚により家族で住んでいたマンションを、どのように処分するのかに悩んでいる人が多いのではないでしょうか。トラブルを避けるためにも、マンションをどのように対処するのかは夫婦間で慎重に話し合う必要があります。

この記事では、離婚によるマンションの対処方法や売却方法、売却時に気をつけるべきポイントを解説します。離婚によってマンションの処分に困っている人は、この記事を最後まで読んで参考にしてください。

※この記事では財産分与に2分の1ルールを採用しています。夫婦間の話し合いによって割合が異なるケースもありますのでご了承ください。

離婚する場合のマンション対処法3選

離婚するケースでのマンションの対処方法は、以下の3つが挙げられます。

  • 売却する

  • どちらか一方が住み続ける

  • 賃貸物件として貸し出す

それぞれの対応方法を詳しく解説します。

売却する

離婚時のマンション対処方法の1つ目は売却することです。財産分与の際に資産を分割する必要がありますが、マンション自体を割ることはできないため、売却金額を分割することで資産を分け合います。

夫婦間の財産分与では、婚姻期間中に購入したマンションは、どちらかの単独名義でも原則として夫50%:妻50%に分けることとなります。たとえば、婚姻中に購入したマンションを財産分与として5,000万円で売却した場合、名義が夫のものであっても、原則夫婦ともに2,500万円を分け合うことになるのです。

売却の注意点として、財産分与には2年の期間制限があることです。離婚から2年が経過すると請求できなくなるため、財産分与を行う際はスケジュールに気をつけましょう。

どちらか一方が住み続ける

夫婦のどちらかがマンションに住み続けることも対処方法の1つです。子どもの学区を変えたくないなどの、やむを得ない事情がある際に選ばれる方法です。どちらかが住み続けることで、通勤・通学や生活環境を変えなくて良いため、精神的な苦痛が少なくて済むでしょう。

ただし、どちらか一方が住み続けるためには、相手方に対しマンションの資産価値の半額を支払う必要があります。具体的には、2,000万円の資産価値があるマンションに妻が住み続ける場合、財産分与として夫に1,000万円を支払わなければいけません。

この資金を捻出するために住宅ローンを利用することは困難です。離婚後もマンションに住み続けるためには、捻出できる自己資金額に注意する必要があります。

賃貸物件として貸し出す

離婚時の対処方法3つ目は、賃貸物件として貸し出すことです。ローン残債が大きく売却が難しいケースや、不動産を手放したくないケースなどで採用されます。

賃貸物件として貸し出すことで、得られる賃料をローン返済に充てられ、マンションを手元に残しておけます。ただし、賃貸経営では家賃の滞納や原状回復工事、固定資産税の支払いなどが発生し、それを夫婦のどちらが負担するのかでトラブルになる可能性があります。

賃貸物件として貸し出す方法は、離婚後にも夫婦間で連絡を取らなければいけないケースがあるため、離婚後の連絡は避けたいという人には向いていない方法です。

離婚時にマンションを売却する方法

離婚後にマンションを売却するケースでは、以下の2パターンが考えられます。

  • 住宅ローンの残債よりも家の売却金額が上回っているケース

  • 住宅ローンの残債が家の売却金額を上回っているケース

ここでは、ケースごとの売却方法を解説します。

住宅ローンの残債よりも家の売却金額が上回っているケース

家の売却価格で住宅ローンを返済できるケースをアンダーローンと呼び、この場合は通常通りの売却でマンションを処分できます。アンダーローンでは、マンション売却後の手元に残った金額を夫婦で財産分与すれば良いため、トラブルも起こりにくいと言えます。

たとえば、売却価格3,000万円、売却の諸費用100万円、住宅ローンの残債2,000万円のケースでは以下の計算式となります。

3,000万円−100万円−2,000万円=900万円(手元に残った金額)

900万円÷2=450万円(夫婦それぞれが得る金額)

購入時の自己資金額や親からの援助により、計算が複雑になることもありますが、住宅ローンの残債よりも家の売却金額が上回っているケースではトラブルの少ない財産分与が期待できます。

住宅ローンの残債が家の売却金額を上回っているケース

家の売却価格で住宅ローンの残債を返済しきれないケースをオーバーローンと言います。オーバーローンの状態で売却するためには、返済しきれない残債分を夫婦の貯蓄から捻出して、住宅ローンを完済しなければなりません。

夫婦の貯蓄を合わせても完済できない場合は、「任意売却」を利用する方法があります。任意売却を利用すれば、物件価格が残債に満たない場合でも抵当権が抹消できますが、足りない分の債務が残ります。財産分与はプラスの資産のみが対象となるため、この債務は住宅ローンの名義人が負担するのが原則なのです。

ただし、夫婦が合意すれば、残った債務の支払いを他の資産と相殺したり、夫婦間で折半したりできます。そのため、住宅ローンの残債が家の売却金額を上回っているケースの場合では、状況に応じた対策が重要です。

離婚時にマンションを売却しないとどうなるのか

離婚時のマンション売却の方法を紹介しましたが、売却をしない場合は以下のケースが考えられます。

  • ローン滞納時にトラブルが起きやすい

  • 財産分与が複雑化する

  • 売りたくても売れないことがある

これらのケースを具体的に解説します。

ローン滞納時にトラブルが起きやすい

離婚時にマンションを売却しないと、ローン滞納時の対応でトラブルになる可能性があります。住宅ローンの支払いは、離婚をした場合でもあくまで住宅ローンの名義人が行わなければなりません。返済中に滞納が起きた場合は連帯保証人に支払いの請求が届くため、夫婦の一方が連帯保証人になっていると返済義務が発生しトラブルに発展してしまうのです。

夫婦であれば返済の滞納に気付きやすいですが、離婚した夫婦では気付くことは難しいでしょう。ローンの名義人を変更するのは非常に難しいため、売却をせずに返済を続ける場合は注意が必要です。

財産分与が複雑化する

マンションを売却しない場合、財産分与が複雑になりトラブルが発生しやすくなります。売却せずにどちらかが住み続けるケースでは、原則としてもう一方に資産価値の半分を支払わなければなりません。その際に住宅ローンが残っていると、残債を加味しながら計算を行わなければならず、複雑な手続きとなってしまうのです。

また、マンションの資産価値が変動することでトラブルになる可能性もあるでしょう。マンションの資産価値が上がったことを理由に、追加の財産提供を要求されるおそれがあります。財産分与をスムーズに進めるためにも、売却による処分がおすすめです。

売りたくても売れないことがある

離婚時にマンションを売却しなければ、売りたいときに売れなくなる可能性があります。マンションの名義が夫婦共有の場合、売却時に相手の同意を得る必要があり、断られてしまうと売却ができなくなるのです。

中には、離婚後はもう一方に連絡を取りたくないという人もいるでしょう。売却の同意を得るための連絡が苦痛で、いつまでも処分できないという事態も考えられるため、離婚時に売却しない場合は売却時のトラブルに気をつけなければいけません。

離婚時のマンション売却で気をつけるべき3つのポイント

離婚時にマンションを売却では、以下の3つのポイントに気をつけましょう。

  • 売却のタイミングに気をつける

  • ケースに合った売却方法を選ぶ

  • 住宅ローンの残債に注意する

ここでは、それぞれのポイントについて解説します。

売却のタイミングに気をつける

離婚時のマンション売却は、タイミングに気をつけましょう。「離婚前に売却するケース」と「離婚後に売却するケース」をそれぞれ解説します。

離婚前に売却する場合

離婚前のマンション売却に向いているのは、離婚後に相手側とできるだけ連絡を取りたくないという人です。離婚前に売却を済ませておけば、売却手続きに関する連絡の必要がなくなります。

ただし、離婚前のマンション売却によって得られた財産は「贈与」としてみなされてしまう点に注意が必要です。財産を受け取る側に高い税率の贈与税が発生するため、高い金額で売却するほど高額の税金を納める必要があります。

離婚後に売却する場合

離婚後にマンション売却を行い財産を得た場合、贈与ではなく財産分与として扱われるため、原則税金は発生しません。ただし、財産分与の期限は離婚後2年以内と定められているので、先延ばししすぎないように注意が必要です。

一方、離婚後にマンションを売却すると、離婚後に連絡を取り合う頻度が増えるというデメリットがあります。売却が長引くとその分連絡の回数が増えてしまうため、極力連絡を取りたくないという人は離婚前の売却がおすすめです。

ケースに合った売却方法を選ぶ

離婚による売却を検討する場合、状況に合った売却方法を選ぶことが重要です。できるだけ早い現金化を希望するのであれば「買取」、時間がかかっても市場相場価格で売却し財産分与金額を増やしたいなら「仲介」を選ぶと良いでしょう。

とにかく早く現金化したいケース(買取)

買取とは、不動産会社にマンションを買い取ってもらうことです。買取は不動産会社が買取価格を算出し、売主がそれに同意すれば契約に進むことができるため、とにかく早くマンションを現金化したい人におすすめです。

ただし買取は、不動産会社が買い取ったマンションを転売して利益を得る仕組みのため、市場相場の7〜8割程度の金額でしか買い取ってもらえません。相場通りの金額でマンションを売却して、少しでも多い手取りを希望する人には不向きな売却方法です。

相場通りに売却したいケース(仲介)

仲介とは、不動産会社が売主と買主のあいだに入り、取引を成立させる方法です。仲介は一般のお客様に向けた販売方法で、市場相場に合わせた物件価格を設定します。そのため、買取より高い金額で売却できることがメリットです。

しかし、物件を売り出してから成約するまで時間がかかることがあります。競合物件が多かったり、需要が低い時期に売り出したりすると長期戦になるケースがあるので、スケジュールにゆとりを持った状況で仲介を利用しましょう。

住宅ローンの残債に注意する

離婚による売却で気をつける3つ目のポイントは、住宅ローンの残債に注意することです。残債が多すぎる場合、物件を売却しただけでは住宅ローンを返済しきれず、売りたくても売れない状況に陥ってしまうのです。

たとえば、物件価格3,000万円、売却の諸費用100万円、残債4,000万円の場合は以下のようになります。

4,000万円−3,000万円−100万円=▲900万円

900万円の残債を夫婦の貯蓄で支払うことができれば問題ありませんが、支払えない場合は売却を諦めるか任意売却を行う必要があります。離婚によるマンション売却を検討する際は、残債の金額によって状況が変わることを念頭に入れておきましょう。

離婚でマンションを売却するときにかかる諸費用と税金

離婚によるマンション売却では、主に以下の諸費用や税金がかかります。

  • 仲介手数料

  • 登録免許税

  • 印紙税

  • 譲渡所得税

  • 引っ越し費用等

それぞれの費用を詳しく解説します。

仲介手数料

仲介手数料とは、売主と買主のあいだに入って売買契約を成立させた不動産会社に支払う手数料です。仲介手数料は仲介を利用した際にかかるため、買取による売却では支払う必要がありません。

仲介手数料の上限額は以下の表を参考にしてください。

物件価格

仲介手数料の上限額

400万円超

物件価格✕3%+6万円+消費税

200万円超〜400万円以下

物件価格✕4%+2万円+消費税

200万円以下

物件価格✕5%+消費税

物件価格別の仲介手数料は以下のとおりです。

  • 物件価格3,000万円の場合:105万6,000円

  • 物件価格5,000万円の場合:171万6,000円

  • 物件価格8,000万円の場合:270万6,000円

物件価格が上がるほど仲介手数料は高額になります。マンション売却の際は、物件価格と合わせて仲介手数料の金額にも目を向ける必要があります。

登録免許税

登録免許税とは、マンションが売れた場合に名義を売主から買主に変えるための税金ことです。売主側にかかる登録免許税は「抵当権抹消登記」にかかるものです。抵当権とは、住宅ローンを組んだ際に金融機関がマンションに付けた担保権のことで、この抵当権を登記簿謄本から消す登記を「抵当権抹消登記」と呼びます。

登録免許税は1つの不動産につき1,000円がかかります。土地が1筆、建物が1筆のマンションの場合は2,000円、土地が3筆、建物が1筆のマンションの場合は4,000円の登録免許税が発生します。売却にかかる登録免許税はマンションによって変わるため、税額が気になる人は登記簿謄本や売買契約書を確認しましょう。

印紙税

印紙税とは、課税対象の文書を作成した際に納付する税金です。離婚によるマンション売却では、売買契約書に印紙税がかかります。

売買契約書にかかる印紙税は以下のとおりです。

売買価格

印紙税額

100万円を超え500万円以下のもの

1,000円

500万円を超え1,000万円以下のもの

5,000円

1,000万円を超え5,000万円以下のもの

1万円

5,000万円を超え1億円以下のもの

3万円

※この表は、平成26年4月1日から令和9年3月31日までの間に作成される契約書についての、印紙税税額の軽減が適用された場合の金額です。

引用:国税庁「No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」

物件価格が4,000万円の売買契約書には1万円、物件価格が7,000万円の場合は3万円の印紙税がかかります。(平成26年4月1日から令和9年3月31日までの間に作成される契約書についての、印紙税税額の軽減が適用された場合)

印紙税は、売買契約書に印紙を貼付し消印することで納税します。印紙を貼り忘れたり消印をし忘れたりすると罰則が発生します。印紙税は目立ちにくい税金ですが、忘れずに納付するようにしましょう。

譲渡所得税

譲渡所得税とは、マンションを売却して利益(譲渡所得)が出た場合にかかる税金です。譲渡所得による所得税、住民税、復興特別所得税をまとめて譲渡所得税と呼びます。

譲渡所得税はマンションの所有期間により税率が異なります。

所得区分

所有期間

税率

短期譲渡所得

所有期間5年以下

39.63%

※所得税:30%

住民税:9%

復興特別所得税:0.63%

長期譲渡所得

所有期間5年超

20.315%

※所得税:15%

住民税:5%

復興特別所得税:0.315%

マンション売却により譲渡所得が発生した場合の、譲渡所得税を計算してみましょう。

  • 譲渡所得1,500万円の場合

所有期間5年以下(短期譲渡所得)

1,500万円✕39.63%=594万4,500円

 

所有期間5年超(長期譲渡所得)

1,500万円✕20.315%=304万7,250円

 

  • 譲渡所得500万円の場合

所有期間5年以下(短期譲渡所得)

500万円✕39.63%=193万1,500円

 

所有期間5年超(長期譲渡所得)

500万円✕20.315%=101万7,500円

 

譲渡所得税は高い税率で設定されていますが、特別控除や特例を活用すれば大幅な節税につながります。マイホームの売却時に使える「居住用財産の3,000万円特別控除」や、マンションを10年以上所有した場合に使える「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」を利用して、少しでも手取り額を増やせるようにしましょう。

引っ越し費用等

マンションを売却した際に忘れていはいけないのが引っ越し費用です。引っ越し費用が安く済む時期は8月と12月で、2〜3月や10月は引っ越しの需要が高いため費用が高くなる傾向にあります。引っ越し費用を少しでも安くするためには、引っ越し業者の比較サイトで業者を選定したり、基本料金が下がりやすい平日を狙ったりしましょう。

また、その他の費用として新居の家具・家電購入費用や、売却するマンションの残置物撤去費用などが挙げられます。マンションを売却する時期やケースによって費用が異なるので、状況に応じて資金計画を立てることが重要です。

まとめ

この記事では、離婚によりマンションを売却する方法や気をつけるべきポイント、費用について解説しました。売却する際は、物件価格で住宅ローンを完済できるかどうかが重要なポイントです。また、売却のタイミングは離婚前後でメリット・デメリットが異なります。

離婚の直前に慌ててマンション売却を検討するのではなく、早い段階から財産分与や売却方法について話し合うことで、夫婦間のトラブルを避けられます。専門家への相談に加え、この記事を参考に円満なマンション売却を実現しましょう。