今「所有者不明」の土地が一つの社会問題となっています。特に地方ではこの所有者不明の土地が増え続け、さまざまな社会的問題や経済的損失につながるとして懸念されています。近年ではそのような所有者不明の土地について、法改正を行うなど国としても動き始めています。

今回の記事では所有者が不明な土地がなぜ生まれてしまうのか、近年の法改正の内容や改正によりどのように変わっていくのかについてご紹介します。

所有者不明の土地とは

まず「所有者不明」の土地とは、どのような土地のことを指すのでしょうか?

この所有者不明の土地とは、登記簿上に所有者の情報が正しく記載されていないなどの理由により、政令で定める方法によって探索を行ってもその所有者特定することのできない土地のことを言います。

所有者不明の土地

所有者不明の土地が生まれる背景

所有者不明の土地が生まれる背景として、「相続」があります。相続で土地の所有者を変更する場合、現在の法律では登記簿に記載する義務はありません。

例えば相続で複数の相続人がいる場合、登記の手続きは複雑となります。そのような土地はそのまま放置され、時間の経過とともに「所有者不明」となっているケースも少なくありません。

「土地=財産」と考えられていた時代には、このような所有者不明による土地の問題は大きな社会現象とまではなりませんでした。多くの人が登記を率先して行っていたからです。

しかし土地は保有しているだけでも固定資産税や管理費などの支出が発生します。利用価値の低い土地を保有することはむしろ財産ではなく、「負債」とすら考えられるようになっている側面もあります。

この所有者不明の土地は地方にいけばいくほど、割合が大きくなっています。これは「田舎にある土地を保有しても得はないし大変なだけ…」と考える人が多く、登記を行わない人が増えているからだと考えられています。

年々この「所有者不明」の土地は増加しており、現在では全国に410万ヘクタール、日本の20%がこの所有者不明の土地であると言われています。

日本における所有者不明の土地

所有者不明の土地が増え続けることも問題

ではこの所有者不明の土地が増え続けると、実際にどのような問題が発生していくのでしょうか。

土地の所有者がわからない状態が続くと、時間の経過とともに劣化した不動産は震災などの災害があった場合に、倒壊などのリスクも非常に高くなりますし、近隣への悪影響もあります。手入れされていない建物や土地は周辺の不動産価値を下げることにもなりかねません。

また更地の状態であったとしても、災害発生時にその土地を利用したいのにもかかわらず、所有者がわからないなどの理由から活用できない、政策により新たな道路を建設したいのに所有者がわからず話が進められない、などの問題が発生する場合もあります。インフラを整備したくても整備できないという状態です。またそのような所有者不明の土地が犯罪などに利用されることもあります。

そして何よりそのような土地を有効活用できていないということ自体が、経済的な機会損失となっています。

法改正の内容

この所有者不明の土地問題を解消するために2019年2月、民法と不動産登記法を見直すとの発表がありました。法改正の焦点としては

  • 相続時の登記の義務化
  • 遺産分割を話し合いで決める期間にも制限
  • 土地の所有権を放棄できるようにする制度
  • 債権者などが土地ごとに相続財産管理人を選任

が挙げられ、この改正により将来的に所有者不明の土地問題が解消されることが期待されています。

法改正の焦点

さらに同年5月17日には、所有者不明の土地を一定の条件で売却できるようにする法律が参院本会議で成立しました。

この法律は、不動産登記簿に所有者の氏名や住所が正常に記録されていない土地に対して、登記官に旧土地台帳を調査するなどの権限を与えるもので、所有者がわかれば登記官が登記を変更できるとなりました。また調べてもわからなければ土地を利用したい自治体や企業の申し立てで、裁判所が管理者を選び売却することもできます。

法改正により期待できる変化

今後、この法改正によりどのような変化が見られるのでしょうか。5月に行われた法改正により、現在所有者が不明となっている土地が売却され、徐々に所有者不明の土地が少なくなるのではと期待されています。

しかし実際、今回の改正による「一定の条件」を満たす土地というのはまだ全国の1%程度とのことで、これからまだこの土地問題が解消されるまでの道のりは長くなりそうです。

しかし長期的に見ると、所有者不明の土地が生まれる根本的な原因を解消するための、相続における登記の義務化、遺産分割の期間に対して制限を作っていく、などの方向には進んでいます。

現在の法律ではなかなか自治体も動くことができませんでしたが、今後の法改正により所有者不明の土地問題が解消され、国として課題となっている所有者不明の土地による機会損失を最小限に抑えることにつながっていくのではないでしょうか。